研究概要 |
平成23年度は, 1.既に採集し保管してあったフウライカイメン標本を用いた分類学的研究, および, 2.フウライカイメンの分布域の野外調査を行った.1では外部形態および骨片の観察を行い, 一部の標本についてはDNAを抽出して分子系統解析を行った. その結果, 原記載において3亜種とされたもののうち, 小さな塊状のもの及び上面が平らな大きな塊状のもの(合わせて"塊状"とする)と, 枝状を呈するものの間に遺伝的差異が見られた. この違いは他種との比較から異種間の違いがあることが示唆された. これら2形態群の間で骨片の形態や大きさの違いは見つかっておらず, インド・西太平洋産のSpheciospongia属の分類学的再検討を進める上でカイメン自体の外形も考慮する必要がある.2では沖縄県島尻群座間味村の阿嘉島において島のほぼ全周の浅瀬をまわってフウライカメンの分布を調べた. その結果, フウライカイメンの個体群は観察されなかった. 一方, 島の西側の浜辺には無生殖による芽球が多数打ち上っていたことから, 近隣の島から浮遊分散による芽級の加入があることが示唆された. 八重山諸島はもとより, 同じ島尻群の渡嘉敷島や沖縄本島の備瀬からはフウライカイメンの大きな個体群が見つかっていることから, 島の浅瀬環境がフウライカイメンの分布に影響を与えていることが示唆された. 浮遊した芽球が沈降するうえで丈の高いアマモ類との接触が重要であると推測しており, このようなアマモ類の有無がフウライカイメンの分布に影響を及ぼしていると考えている. 来年度は, それらの検証も併せて研究を進めていきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究対象とするフウライカイメンは, 本邦では夏季に無性生殖を行うことが申請者の予備研究でわかっているが, 申請者の所属機関における夏の業務が非常に忙しく, 今年度は真夏に野外調査に出かけることができなかった. また,野外調査を行う上での基地と捉えていた阿嘉島にはフウライカイメンが分布していないことが判明し, 新鮮な標本を必要とする組織学的な研究や生きた状態での観察が必要な生態学的な研究を遂行できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は夏の業務に余裕があるため, 今年度は遂行できなかった夏の沖縄での野外調査を行うことができる. 7月初旬と8月下旬の2回に分けて行う予定である. この2回で組織学的研究に必要な標本の採集と, 野外における生態学的な研究を行う予定である. また, 調査や業務の合間に形態解析と分子系統解析も引き続き行っていく. 今年度の計画に入っていながら行えなかったインド洋西部での調査も行いたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度使用できなかった研究費は, 海外調査の渡航費用を見込んだものが, 遂行できなかったために繰り越し分となっている. 次年度では, これらの調査を行う予定であり, 繰り越し分も使用する. 次年度交付分の研究費については当初の予定通り使用する.
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