研究課題/領域番号 |
23770088
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
倉林 敦 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00327701)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 転移因子 / SINE法 / 系統地理 / 大陸移動 / アカガエル科 / マダガスカルガエル科 / ヒメアマガエル科 / 次世代シークエンサー |
研究概要 |
転移因子SINEを指標に、アカガエル類の系統関係を再検討することを目的とし、研究を実施した。アカガエル類ではSINEが発見されていなかったため、本年度は、次世代シークエンサーにより大量のゲノム配列を得て、SINEを探索した。アカガエル科のニホンアカガエルと、マダガスカルガエル科のセアカアデガエルについてゲノムシークエンスを行い、前者から約48Mbp、後者から約118Mbpの塩基配列を得た(それぞれ全DNAの1/20と1/10程度の配列)。これらの配列から既知のSINE配列を探索した所、両種ともに、ごく最近報告されたtRNA由来の SINE2-1-XTと、7SrRNA由来と思われるBBSINE1という2種の SINE様配列が存在することが分かった。少なくともSINE2-1-XT様配列は、ゲノム内の異なる部位に全く同じか、非常に良く似た配列のコピーが存在することから、SINE2-1-XT様配列は、転移活性を持った「生きたSINE」であることが強く示唆された。また、SINE様配列の出現率とSINE2-1-XT/ BBSINE1様配列の存在比は、2種のカエル間で異なっていた。ニホンアカガエルでは、ゲノム中のSINE様配列出現率はわずか0.2%であり、2種のSINE様配列の存在比は2:1程度であるが、セアカアデガエルでは、出現率0.9%、存在比10:1であった。このことは、アカガエル科ではSINEの転移・増幅はあまり生じていないが、マダガスカルガエル科ではSINE2-1-XTファミリーの転移が高頻度で生じていることを示しており、このグループでは、SINEを指標とした系統解析が実施しやすいことが分かった。 また、ヒメアマガエル類について、従来考えられていた南極ルートではなく、アジアルートを通ってオーストラリアに定着したという強い証拠を得たので、学会発表と論文出版を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アカガエル類では、これまでにSINEが得られていなかったが、今年度の研究により、少なくとも2種類のSINEファミリーがアカガエル類に存在することが示せた。特に、SINE2-1-XTファミリーが、マダガスカルガエル科で高頻度で転移していることが分かったため、このグループにおいてはSINE法による系統関係の再検討が容易に実施できることを示せたことで、今後の研究の進展が大いに期待できるようになった。 また、6つの核遺伝子と2つのミトゲノム遺伝子を用いて実施した、ヒメアマガエル類の高次系統関係の再検討は、これまでに本グループについて実施された系統推定の中でも、種数・データ量共に最大の解析である。特に、詳細な分岐年代推定によって、オーストラリア産ヒメアマガエル類について、大陸移動と相関した侵入ルートの新仮説を提唱できたため、非常に注目度が高い研究(論文ダウンロード数1000件以上)となっている。 これらの成果を得たことで、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、アカガエル科では既知のSINEの転移・増幅が少なく、一方で、マダガスカルガエル科ではSINEが増幅していることが分かった。このため、既知のSINEファミリーを系統指標に用いる場合、アカガエル科では研究の実施がやや困難であると考えられた。このため、アカガエル科については、新規SINEを探索する必要がある。また、研究目的のマダガスカルガエル科3亜科間の系統関係の解明を実施するため、今回発見されたSINE座位用のPCRプライマーを作製し、Boophinae・Laliostominae・Mantelinaeの3亜科の代表種についてSINE座位の増幅を実施していく。また、アカガエル・マダガスカルガエル科以外のグループの代表種について、次世代シークエンス解析を行い、SINEを単離する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の予算(30万円)を次(H24)年度に使用する。これは、本年度の研究により、当初次年度に予定していた次世代シークエンス法(ランダムリード:コスト65万円)よりも、3kbpライブラリー作製を介した解析法(コスト95万円)が、シークエンス効率が2倍以上高いことが分かったため、後者の方法を次年度に実施するための処置である。 上記以外の研究費は、(1)SINE座位増幅用プライマー作製、(2)PCR試薬、(3)SINE分布系統探索、および、SINE座位単離を目的とした、コロニーハイブリダイゼーション試薬、(4)国際学会参加費(第七回国際爬虫両生類会議:2012年8月カナダ・バンクーバー)に使用する予定である。
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