平成26年度は,前年度まで調査・実験を継続するとともに,全体のまとめを行った.大気中からの散布体の回収とDNAバーコーディングによる同定,地上に生育する集団の地理的変異について実験を行った.また,葉緑体ゲノムの塩基配列の決定も継続した.大気中からの散布体については,前年度に引きつづきコケ植物とシダ植物,緑藻類が確認された.これらの植物体について,DNAバーコーディングによる同定を行った.コケ植物では蘚類の割合が大きかった.前年度に検出されたスミレモ類については,培養株が確立できたため,種同定を行うため形態観察および核18S rRNA遺伝子による分子系統解析を行った.地理的変異については,蘚類アカイチイゴケPseudotaxiphyllum pohliaecarpumおよび同属他種について,葉緑体rbcLとrps4および核ITS領域を用いてハプロタイプの比較を行った.産地を増やして実験を行ったが,新たなハプロタイプは確認されなかった.また,標本の産地情報についてGISを用いて潜在的な分布を計算した.その結果,網羅的なサンプリングが行われている場合,最低400地点程度の情報があれば,分布予測が可能であることが明らかになった.葉緑体ゲノムについては,プライマーウォーキング法により塩基配列の決定を進めた.これらの研究成果の一部は,専門学会で発表を行うとともに,論文投稿中または論文執筆中のものがある.野外調査の際に得られた新しい知見については,論文発表または学会発表を行った.今年度は実験装置とPCの故障があり,予算不足から一部の実験に遅れまたは実施できないものがあった.日本産コケ植物についてはDNAバーコードライブラリが存在しないため,多くの種で正確な同定が行えず,コケ植物のDNAバーコードライブラリの構築が今後の課題であることが明らかになった.
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