研究課題
ヒメミカヅキモでは交配群IIAの+型細胞と交配群IIBの-型細胞の掛合わせでは接合が見られるものの、逆の掛合わせでは接合が見られない。 このような非対称な生殖隔離の原因は、交配群IIAの-型細胞が放出する性フェロモン(PR-IPに相当)が、交配群IIBの+型細胞にほとんど作用出来ないためであることを見いだしている。実際、交配群IIA、IIBより2種の性フェロモン相同遺伝子を単離し、両者の配列を比較したところ、PR-IP Inducer遺伝子については高い相同性が示されたが、PR-IPの19 kDaサブユニット遺伝子では比較して相同性が低かった。ヒメミカヅキモでは、完全長cDNA解析により、異なる5つの発生ステージから約17万 ESTsの発現情報を得ている。更にはシャジクモ藻類で唯一、+型、-型細胞それぞれにおける概要ゲノム配列の解読を行なっている。このデータベースを用いて性フェロモン遺伝子のゲノム情報を解析し、コピー数や相同遺伝子数、その配列情報を用いた系統解析を行い、PR-IP Inducer とPR-IP遺伝子のゲノムレベルの違いを明らかにした。その結果、PR-IP Inducer遺伝子は+型、-型の両ゲノム中に複数コピー存在したが、PR-IP遺伝子は1コピーずつしか存在しなかった。以上の事からPR-IP遺伝子はPR-IP Inducer遺伝子と比較して変異の蓄積が容易で進化速度が早いことが考えられた。また、交配群IIAにおけるPR-IPの構造が変化することで、交配群IIBの+型細胞がこれを認識出来なくなり、非対称な生殖隔離が起こったものと考察している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は性フェロモンの種認識領域を特定するうえで、概要ゲノム情報を用いた解析を中心におこなった。これにより2つの性フェロモンはゲノムレベルで特徴が異なるという新発見にもつながり、今後の種認識領域の特定に向けて重要な知見を得ることが出来た。また、研究計画の通り、組換え型タンパク質の産生を初年度に部分的に進め、 2種のPR-IP Inducer 遺伝子を酵母を用いて発現させることに成功していることからも、おおむね順調に進展していると自己点検・評価した。
各交配群の配列と、今年度新たに明らかになったPR-IP Inducer及びPR-IP相同遺伝子配列を用いて、予定通り性フェロモンにおける種認識領域の特定などを進める。また、酵母を用いたPR-IP Inducerの産生に成功していることから、これらのアッセイ系も構築し、生理学的実験などを通して活性を検証する予定である。
現在ヒメミカヅキモでは概要ゲノム配列の解読が進み、これを用いた解析を優先したため、次年度に使用する予定の研究費が存在する。しかし、概要ゲノム情報の解析から、性フェロモンのコピー数、更にはほぼ全ての相同配列の特定するに至った。今後はこれらの情報を用いて当初の予定に従い、性フェロモンの分子進化と生殖隔離の関係を生理学的実験などを通して検証する予定である。
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