研究課題/領域番号 |
23770093
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
土金 勇樹 日本女子大学, 理学部, 助教 (20434152)
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キーワード | 藻類 / ミカヅキモ / 生殖隔離 / 種分化 / 性フェロモン / 有性生殖 |
研究概要 |
本年度は交配群IEを用いてRNA seq解析を行なった。また、概要ゲノム情報の結果も踏まえ、性フェロモン相同遺伝子群の特徴と発現様式を明らかにした。その結果PR-IP Inducer遺伝子は+型、-型の両ゲノムともに3コピー存在し、それぞれ発現していることが示された。また、パラログも多数みられ、遺伝子重複が複数回起っていたことが示唆された。一方、PR-IP遺伝子は少数のパラログは存在するものの、遺伝子そのものは両ゲノム中に1コピーずつしか存在しなかった。性フェロモン受容体に突然変異が起った場合、性フェロモン遺伝子が複数存在していれば、その1つに変異が入る事で対応し、多様な受容体に作用出来るものと考えられた。 一方、出芽酵母においても、性フェロモンa因子とα因子による生殖隔離が知られており、α因子の種間相互作用が起らない非対称な生殖隔離が知られている。近年の解析により前者は複数の遺伝子に、隔離の原因となるα因子は1遺伝子にのみコードされていることが明らかとなった。これは本研究で明らかになった性フェロモンの特徴と共通しており、緑藻と酵母という、異なる生物に共通して単コピーの性フェロモンが原因となる生殖隔離が観察された。この現象の解析を進めることは、生物の種分化における共通の機構の解明へと繋がる。 更に、ヒメミカヅキモにおける新規交配群の発見にも成功しており、この交配群の生殖隔離の状況と性フェロモン配列の比較を行なうことで、性フェロモンによる生殖隔離における実体の理解が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は性フェロモンの種認識領域を特定するうえで、RNA-Seqを用いた解析を行なった。概要ゲノム情報も踏まえ、2つの性フェロモンはゲノムレベルで特徴が異なるという新発見にもつながり、性フェロモンによる生殖隔離を理解するうえで重要な情報となった。更には、BACライブラリの作成を完了しており、性フェロモン遺伝子群のゲノムレベルでの特徴解析が可能となった。また、PR-IP Inducer 遺伝子を酵母を用いて発現させることに成功していることからも、おおむね順調に進展していると自己点検・評価した。
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今後の研究の推進方策 |
各交配群の配列と、今年度、新たに明らかになったPR-IP Inducer及びPR-IP相同遺伝子配列を用いて、予定通り性フェロモンにおける種認識領域の特定などを進める。また、酵母を用いたPR-IP Inducerの産生を行なっており、生理学的実験などを通して活性を検証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はRNA-Seq解析も行なったため、次年度に使用する予定の分子生物学実験用の研究費が存在する。しかし、概要ゲノム情報、RNA-Seqの解析から、性フェロモンのコピー数、全ての相同配列の特定、遺伝子発現の状況から実際に機能するだろう性フェロモンの配列などが明らかになった。今後はこれらの情報を用いて当初の予定に従い、性フェロモンの分子進化と生殖隔離の関係を生理学的実験などを通して検証した結果をまとめる予定である。
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