研究課題/領域番号 |
23770098
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
長野 由梨子 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 研究員 (30512917)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 真菌 / 深海 / 地殻 / 極限環境 / 真核微生物 |
研究概要 |
今年度はメタン冷湧水域、深度1万メートルの海溝域、鯨骨域の泥や海水、また人為的に海底に沈めた木片のサンプリングを行った。サンプリングした泥や海水、木片から、固体/液体培養、好気/嫌気培養、高圧培養等様々な方法を用いて真菌の分離を行い、200株以上に及ぶ分離株の取得に成功した。これらの分離株の中には、これまで培養に成功していなかった系統群も含まれる。メタン冷湧水域と鯨骨域の底泥からは非常に高頻度で真菌が分離されたのに対し、深度1万メートル近い海溝域の底泥からは低頻度でのみ真菌が分離されたが新種の割合が多かった。海溝域から分離された株については高圧培養を行い、その耐圧性を現在調査中である。海底に人為的に沈められた木片からはこれまでに世界で1例しか報告がなく、深海性真菌の可能性が高い菌が子実体を木片に形成した形で採集された。子実体を形成した形での深海からの真菌の分離は非常に珍しく、今後の深海性真菌の研究に非常に重要なサンプルの取得となった。本研究で特に注目している未培養真菌群Deep-Sea Fungi-Group1 (DSF1)に関しては、当初の計画通りに特異的プライマーの構築、マイクロマニュピュレーターによるsingle cell PCRやsingle cell培養が進んでいる。DSF1は調査が終わっているすべてのサイト(鯨骨域は現在調査中)からDNA、RNAレベルの両方で検出され、深海環境に広く生息している真菌である事を改めて確認した。今年度の研究成果により、これまでその多くが謎に包まれていた深海環境中の真菌の多様性や生態についてその一端が見えて来た。今後これらの調査がさらに進めば、深海環境における真菌類の実態解明や生態学的意義の解明へと繋がる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予定通りにサンプリングが進み、さらに研究協力者の協力により当初の予定にはなかった人為的に沈めた木片からの深海性真菌の取得にも成功した。取得したサンプルからはこれまでに培養できていなかった新規性の高い真菌類や、『深海性』である可能性のある非常に珍しい菌を分離できており、研究目的である"これまでに報告されていない新奇真菌類の発見"を順調に達成できていると考える。本研究で特に注目している未培養グループDSF1に関しては、当初の計画通りに特異的プライマーの構築を行い、取得サンプル中におけるDSF1の出現傾向の調査がDNAレベルとRNAレベルの両方で進んでいる。以上の事から本研究は、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きサンプリングした泥、海水、木片から分離した新規性の高い真菌類の同定や性状解析を進めると共に、環境PCR法によって真菌多様性解析を行う。これらの結果を元に深海環境における真菌の地理学的分布や出現傾向を考察し、まだ培養できていない新規性の高い系統群についてはマイクロマニピュレーターによるsingle cell PCRやsingle cell培養、FISH等により実態解明を行う。 また、来年度はこれまでに分離された新規性の高い菌の中でも、人為的に海底に沈められた木片から採取された『深海性』である可能性の高い菌に特に注目し、この菌のExpressed Sequence Tag (EST) 解析を行う。このEST解析により、深海性真菌の発現遺伝子を明らかにする事によって、代謝経路の予測等を行い、深海環境における真菌の謎に包まれた生態の解明へと繋げる。深海環境での生息が確認されている真菌のEST解析が行われるのは世界でも初めてであり、この結果は非常に重要なインパクトをもった興味深いものになると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、次世代シーケンサーによる深海性真菌のEST解析に主に充てられる予定である(百数十万円程度)。その他、真菌類の培養関連試薬やDNA/RNA抽出キット等に数十万円使用予定である。また、日本菌学会やBritish Mycology Societyにおける成果発表と研究遂行に有用な情報収集のための学会参加費として、数十万円程度使用予定である。
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