研究概要 |
ウェルナー症候群とブルーム症候群は,常染色体劣性のまれな遺伝病である。両患者の細胞には,テロメアの急速な短縮など,ゲノム DNA の不安定化が顕著に認められる。発症の原因はそれぞれ,WRN ヘリカーゼ(Werner syndrome protein)と BLM ヘリカーゼ(Bloom syndrome protein)に変異が起こり,機能欠損してしまうことが原因である。本研究では,WRN,BLM 両タンパク質と DNA の複合体立体構造を決定し,テロメア DNA 巻き戻しの仕組みを明らかにすることを目指す。 今年度はまず,結晶化に用いるタンパク質ドメインを,大腸菌によって大量発現させ,クロマトグラフィーを用いて高純度に精製する作業を行った。同時にテロメア配列の一本鎖 DNA を受託合成し,アニーリングによって結晶化用 DNA 試料を調製した。様々な組成のバッファー(緩衝液)を用いて,X線結晶構造解析に必要な結晶化条件の検索を行った。複合体の結晶はまだ得られていないものの,結晶化に有利に働くと考えられる条件の選定を進めることができた。 また,2010 年に研究代業者らがX線構造決定に成功した,三量体 G タンパク質と阻害剤 YM-254890 の複合体構造(Nishimura, A.*, Kitano, K.*, et al., 2010, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.; *Equally contributed.)を用いた,新たな計算解析の研究も行った。WEB 上のデータベースや,専用ソフトウェアを用いて阻害剤作用機構を調べた結果,YM-254890 がくさびのようにタンパク質のドメイン間に挟まって,三量体 G タンパク質の運動を阻害するという,阻害剤作用の新しい仕組みを提唱することができた。この研究成果は,国内のふたつの研究会で発表した。
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