研究課題
本研究は、DNA損傷に応答して機能するヒトHLTF (hHLTF) を対象とした構造生物学的研究である。DNA損傷による複製異常は、老化やアポトーシスを引き起こす。DNA損傷による複製停止を回避する戦略の一つがテンプレートスイッチである。 テンプレートスイッチに関与するhHLTFは、ユビキチンリガーゼ活性を持つRINGドメインとDNAヘリカーゼ活性をもつSnf2ドメインを併せ持つ特殊なタンパク質であり、さらに新奇DNA結合ドメインと予想されるHIRANドメインを持つことが知られている。しかし、hHLTFの立体構造は報告されておらず、テンプレートスイッチの原子レベルでの反応機構は不明である。そこで、hHLTFのX線結晶構造解析から、テンプレートスイッチの構造基盤を明らかにし、立体構造に基づくHLTFの機能解明を目的として、研究を進めている。平成23年度は、hHLTFの新奇DNA結合ドメインと予想されているHIRANドメインに着目して研究を行った。セレノチオニン置換体を調製し、異常分散法を用いて構造解析した。その結果、HIRANドメイン-DNA複合体の結晶構造を1.4オングストローム分解能で決定することに成功した。得られた結晶構造を基に、HIRANドメインのアミノ酸残基に変異を導入し、DNAとの結合に重要な残基を特定した。これらの研究により、今後RINGフィンガードメインやSnf2ドメインと併せて構造機能解明を進める上で重要と思われる知見を得た。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度は、hHLTFの新奇DNA結合ドメインと予想されているHIRANドメインに着目して研究を行った。HIRANドメインの調製と結晶化は既に確立していたため、セレノメチオニンを導入したタンパク質を調製し、結晶化に用いた。単波長異常分散法により、HIRANドメイン-DNA複合体の結晶構造を決定することに成功した。高分解能での構造解析に成功したため、その結晶構造をもとにHIRANドメインに変異を導入し、DNAとの結合に重要なアミノ酸残基を特定した。平成23年度に行った研究により、HIRANドメイン-DNA複合体の結晶構造解析と、HIRANドメインのDNAとの結合に重要なアミノ酸残基を特定することに成功し、研究計画に沿っておおむね順調にすすめることができた。
平成23年度に行った研究により、hHLTFのHIRANドメインの構造機能解析を進めることができた。今後は、ユビキチンリガーゼ活性をもつRINGフィンガードメインやDNAヘリカーゼ活性をもつSnf2ドメインの結晶構造解析を進める。結晶化用タンパク質の安定性に問題が生じた場合は、発現領域、発現ベクター、大腸菌宿主の組み合わせを最適化するとともに培養条件を検討して対応する。機能ドメインごとの試料調製と並行してhHLTF全長に関しても試料調製を行い、X線小角散乱法を用いた溶液構造解析を行う予定である。得られた結果を複合的に解釈し、テンプレートスイッチの構造基盤を得る。また、成果を国内外の学会で発表し、投稿論文としてまとめる。
目的タンパク質の調製、結晶化、構造解析等に必要な機器や各種ソフトウエアはすでに導入済みであり、基本的には現有の設備で研究の遂行が可能である。従って、試料調製や結晶化に関わる、試薬などの消耗品に使用する。実験室系のX線装置よりも迅速に高精度なデータを得るため、つくば高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設 (Photon Factory) や西播磨大型放射光施設 (SPring-8) のビームラインを使用することを予定している。そのため、旅費と使用料 (SPring-8) に研究費を使用する。成果を国内外の学会で発表するための旅費、投稿論文としてまとめるための英文校閲、論文投稿料としても使用する。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY
巻: 287 ページ: 14289-14300
10.1074/jbc.M112.353201