研究課題/領域番号 |
23770129
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
安達 基泰 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (60293958)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | HIV / プロテアーゼ / 中性子 / 結晶 / 構造解析 |
研究概要 |
本研究では、阻害剤非結合型(apo型)HIV-PRの活性部位に存在する水和水の立体構造を中性子結晶解析によって観測し、その特徴を解析する。得られる水和水の構造情報から、阻害剤の結合時に生じる水和水の脱水和のエントロピーの効果と阻害剤非結合状態における触媒残基の正確なプロトン化状態を把握する。これらの情報をholo型構造と比較することによって、水和水の脱水和効果を考慮した薬物設計の高度化に資することを目的としている。 本研究を達成するためのもっとも重要な課題は、高分解能回折能を有する高質なapo型HIV-PR結晶の取得である。本年度は、そのapo型HIV-PR結晶を取得に向けて、(1)1本鎖型および(2)クロスリンク型HIV-PRの調製と結晶化実験を行った。 (1)1本鎖型HIV-PR: HIV-PRは、触媒部位と反対側の位置に、互いに異なるプロトマー由来のN末端とC末端をもっており、両末端が逆平行ベータシートを形成している。そこで、立体構造情報からリンカーを挿入し1本鎖型HIV-PRを設計した。2アミノ酸残基から成るリンカーを導入して野生型と同様の方法で調製を試みた結果、1本鎖型HIV-PRの取得に成功した。 (2) クロスリンク型HIV-PR: HIV-PRは、ホモ2量体であることから、分子内に2回対称軸をもっている。そこで、その2回対称軸付近に一つのCys残基を導入し、プロトマー間でSS結合を形成させるN98C変異体を分子設計した。N98C変異体の調製を試みた結果、SS結合を形成したN98C変異体の取得に成功した。 単量体への解離がない1本鎖型およびクロスリンク型HIV-PRの取得は、apo型HIV-PRの結晶の作製において問題となる自己消化が抑制されることから、本研究において重要な成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に従って、高分解能の回折データを与えるKNI-272複合体結晶(holo型HIV-PR)を結晶核としてマクロシーディングを行い、apo型HIV-PRの結晶の作製を試みたところ、結晶の取得が困難であることがわかった。そこで、自己消化が問題と考え、単量体への解離がない1本鎖型およびクロスリンク型HIV-PRを取得したことが評価できる。それぞれのHIV-PRは、大腸菌で不溶性タンパク質として発現したしたものを再生処理し、陽イオンおよび逆相カラムクロマトグラフィーによって精製しているが、クロスリンク型HIV-PRの発現大腸菌の培養液あたり収量は、野生型ものと同等であり、多くの試料を必要とする中性子結晶構造解析に有利である。 さらに、1本鎖型およびクロスリンク型HIV-PRの創製は、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた阻害剤の評価を可能にした。プロトマー間に共有結合をもたないHIV-PRでは、阻害剤の結合にHIV-PRの解離の効果が含まれてしまう。また、SPRを用いる場合、再生処理が必要となるが、2つのプロトマーが両方同時に固定化されないので、測定が困難であった。1本鎖型およびクロスリンク型HIV-PRは、上述の2つの問題を解決すると考えられる。SPRを用いた阻害剤の評価は、薬物設計の高度化に貢献できることから、当初の予定以上の達成度がある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(H24年度)は、高分解能X線構造解析が可能な結晶の取得と中性子結晶構造解析用のapo型HIV-PRの結晶の取得に取り組む。 阻害剤を用いた場合において、すでに高質な結晶の取得に成功していることから、阻害剤の代わりに反応速度の遅い基質を用いて複合体を作製し結晶化を試みる。まず、基質複合体の結晶を4℃の低温条件で取得した後、温度を徐々に上げ、基質を結晶内で加水分解させ、精製物を遊離させることによってapo型HIV-PRの結晶作製を試みる。 また、apo型HIV-PRの結晶の作製の際に、阻害剤結合部位に存在し、基質(阻害剤)の蓋となるフラップ構造の柔軟な動きが問題になる可能性がある。そこで、50番目のIleあるいは51番目のGlyをCysに置換し、SS結合によりフラップを固定する。モデリングによる検討の結果、50番目のIleをCysに置換してSS結合を形成させた場合は、セミオープン型の構造が、51番目のGlyをCysに置換した場合には、クローズ型の構造の解析が可能であると考えられる。 本年度(H23年度)は、HIV-PRの自己消化が問題と考え、単量体への解離がない1本鎖型およびクロスリンク型HIV-PRの取得に注力した。次年度(H24年度)は、それらを用いて高分解能の回折データを与える結晶の取得に着手する。H24年度は、中性子結晶構造解析用に試料を大量に調製するために、H23年度の一部の研究費をH24年度に繰り越した。
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次年度の研究費の使用計画 |
HIVプロテアーゼの大量調製と大型結晶取得のため、変異体の遺伝子作製に必要な消耗品、培養用の消耗品、結晶作製および構造解析に必要な消耗品の購入に使用する。また放射光利用施設へのデータ収集のための旅費、最新の情報交換の場としての学会発表の費用として使用する。研究期間の最終年度(H25年度)には、本研究成果について広く意見交換するために、国際学会で発表するための外国旅費として使用する予定である。
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