本研究では、阻害剤非結合型(apo型)HIV-PRの活性部位に存在する水和水の立体構造を中性子結晶解析によって決定後、その特徴を解析し、水和水の脱水和効果を考慮した薬物設計の高度化に資することを目的とした。 本研究を達成するためのもっとも重要な課題は、高分解能回折能を有する高質なapo型HIV-PR結晶の取得である。本研究では、HIV-PRの立体構造の特徴に着目して、新規な分子を作製し解析することによって様々な知見を得ることができた。本年度が最終年度であるため、以下に、これまでに得られた全3年間の成果を年度毎にまとめる。 H23年度: HIV-PRのN末端とC末端の両末端が逆平行ベータシートを形成していることに着目し、2アミノ酸残基から成るリンカーを挿入した1本鎖型HIV-PRを設計後、調製に成功した。さらにHIV-PRの分子内の2回対称軸に着目し、プロトマー間でSS結合を形成させるN98C変異体を分子設計後、調製に成功した。 H24年度: HIV-PRの可動性のフラップ領域の固定が、分解能向上に寄与すると仮定し、分子内の2回対称軸付近に存在する残基にCys導入し、プロトマー間でSS結合を形成させるI50CおよびG51C変異体を分子設計した。試料調製後、両変異体に関して正八面体状の単結晶を得ることに成功した。G51C変異体において、野生型apo型HIV-PR結晶よりも高い2.0Åの高分解能X線回折データの取得し、X線結晶構造解析に成功した。 H25年度: apo型結晶作製のため、自己消化を抑制した変異体を作製した。1本鎖型HIVPRのAsp25をAsnに置換したD25N-scHIVPRを作製し、阻害剤複合体の結晶を作製後、分解能1.1Åで結晶構造解析に成功した。立体構造を精密化した結果、阻害剤との相互作用を明らかにした。
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