研究課題/領域番号 |
23770131
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
仙石 徹 独立行政法人理化学研究所, システム研究チーム, 研究員 (60576312)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | エピジェネティクス / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
トリメチル化されたヒストンH3Lys27(H3K27me3)は転写抑制に関与することにより多細胞生物の発生・分化において中心的役割を果たしている。本研究では、H3K27特異的脱メチル化酵素UTXがどのようにH3K27を特異的に認識するかを解明することを目指し、ヒト由来UTXのC末端領域単独での立体構造(1.8オングストローム分解能)、およびC末端領域とH3K27me3を含むヒストンペプチドとの複合体の立体構造(1.85オングストローム分解能)をX線結晶構造解析により決定した。C末端領域は触媒ドメインであるJumonjiドメインに加えてUTXホモログに特徴的な亜鉛結合ドメインを持っており、JumonjiドメインがH3K27とその周辺を、亜鉛結合ドメインがH3L20とその周辺を、それぞれ配列特異的に認識していた。変異体解析の結果から、これらの特異的な認識がUTXによる脱メチル化反応に必要であることが示された。すなわち、UTXによるヒストンH3分子の認識は、脱メチル化反応の標的残基(H3K27)周辺だけではなく、そこから少し離れた領域(H3L20周辺)も介して行われることが明らかになった。この特徴的な認識機構によりUTXはH3K27への特異性を獲得していると考えられる。また、これらの立体構造は比較的高分解能で決定されており、UTX特異的な阻害剤開発へ向けての有益な情報を提供すると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では平成23年度まででヒストンペプチド複合体の構造決定を行い、24年度に生化学的解析を行う予定であった。しかし、浸潤法によりヒストンペプチド複合体結晶が予定より早く得られ、構造決定と生化学的解析、論文発表までが23年度内で終了した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定より早く構造解析が終了したので、今後は立体構造を用いた阻害剤のスクリーニングを行う予定である。コンピュータソフトを用いて市販低分子ライブラリーに対するドッキングシミュレーションを行い、スコア上位の低分子を購入して生化学的に阻害効果を確かめる。さらに、実際に阻害能が検出された化合物についてはUTXとの複合体構造をX線結晶構造解析によって決定する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
UTX-基質ヒストンペプチド複合体構造決定が予定より順調に進んだため、セレノメチオニン置換体タンパク質の大量調製や基質ペプチドの購入に予定ほど研究費がかからなかった。結果として、約110万円の研究費が平成24年度に繰越となった。これら繰越金を含めた平成24年度の研究費は、ドッキングを行う高性能コンピュータ(約10%)、ドッキングシミュレーションの結果から得られた阻害剤候補化合物の購入(約30%)、阻害剤アッセイのネガティブコントロールとしての他種脱メチル化酵素発現系の構築(オリゴDNAなど、約10%)、旅費(約10%)、タンパク質発現・精製用試薬(30%)、旅費(約10%)などにあてる予定である。
|