研究課題/領域番号 |
23770134
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 浩美 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (00450669)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 糖鎖 / 糖ペプチド / 構造解析 / 質量分析 |
研究概要 |
タンパク質の翻訳後修飾の一つである糖鎖付加情報(糖鎖構造ならびにその付加位置)を知る手段の一つとして、質量分析計による構造解析が行われている。これまで蓄積された正イオンモードでのMADLIイオン化による、標準糖鎖を用いた非修飾糖鎖(糖残基の水酸基が遊離)の低エネルギー衝突誘起解離(CID)断片化データは、異性体を識別するためのルール抽出に有益だった。現状では、「同一糖鎖試料」を異なる質量分析装置(例えば、ESIイオン化)で解析した際の断片パターンの相関や、3種類の断片化(CID、高エネルギー衝突誘起解離(HCD)、電子移動解離(ETD))、特にHCDとETDで得られる糖鎖断片情報について詳細に調べられていない。こうした構造情報の基礎となるデータは、将来、簡便な構造解析を達成するための重要な情報となる。そこで、23年度は、主として正イオンモードでのESIイオン化によるHCDおよびETD糖鎖断片化の基礎データの蓄積を試みた。まず、データ取得に必要な水酸基の非修飾体および完全メチル化体の基本的な異性体糖鎖を調製・修飾等を行った。次に、これら種々の糖鎖を用いて各断片化について条件の最適化を行ったのち、基本的な異性体構造の断片化情報、1)フコシル化糖鎖:位置・構造異性体に関する情報、2)シアリル化糖鎖:位置異性体に関する情報、3)分岐構造糖鎖:N-結合型糖鎖の分岐異性体に関する情報を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、低エネルギー衝突誘起解離(CID) 断片化のほかに、高エネルギー衝突誘起解離(HCD)および電子移動解離(ETD)断片化を併用した新たな糖鎖構造解析手法を確立し、LC-ESI-MSnによる糖ペプチド構造解析への応用を研究目的としている。そこで、最初の2ヶ年で、異性体構造識別に有用な断片情報収集のため、1)非修飾糖鎖のHCDおよびETDそれぞれの断片パターンの蓄積・データ比較ならびにルールの抽出・データの拡充、2) 修飾糖鎖(糖残基の水酸基にメチル化処理等をした糖鎖)のCID、 HCDおよび ETDによるそれぞれの断片パターンの蓄積・データ比較ならびにルールの抽出・データの拡充を進めることにしている。その1年目として、特に基本的な構造(フコシル化、シアリル化、硫酸化、分岐構造)のHCDおよび ETD断片化による基礎データの収集を重点的に進め、正イオンモードでの断片化情報については達成できた。ただ、HCD断片化データについては、正イオンモードのほかに負イオンモードでの情報収集も予定していたが、こちらについては測定条件の最適化までしか達成されていない。したがって、最初に23年度の達成目標に対する達成度としてこの点のデータ収集が少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に実施し得られた、基本となる異性体糖鎖(非修飾ならびに修飾糖鎖)とその正イオンモードでの断片化情報(HCD、ETD)から、異性体識別に有用なルールの抽出を試みるとともに、識別に有用であった、糖鎖の修飾と断片化(CID、HCD、ETD)の組み合わせによる個々の糖鎖構造データの充実を図る。また、前述のデータの充実と平行して、糖ペプチドの構造解析への応用として、標準品として酵素合成等で調製した糖ペプチド(N-結合型およびO-結合型糖ペプチド)を用いて、3種類の断片化を組み合わせた構造解析(糖鎖の付加位置と結合している糖鎖構造解析)を試みる。糖ペプチド解析ではETDによるペプチドの断片化を有効的に使用し、糖鎖の付加位置情報だけでなく、その糖鎖構造情報については、蓄積した断片情報を有効に利用することで効率的な解析手法を見い出す。最終的には、目的とする糖タンパク質から糖ペプチドを精製後、LC-ESI-MSnによる高スループットな構造解析を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度に計上した国内外旅費ならびにその他の項目の経費の支出が無かったことで次年度に使用する予定の研究費が生じた。24年度は、MSデータ拡充に必要な各物品費の使用として以下のもの使用ならびに経費を計画している。データ取得に使用する測定試料の調製にかかる試薬・溶媒・器具類として77万円、精製のためのカラム・固相抽出ディバイス(順相、逆相、カーボン担体など)として30万円、質量分析計関連の試薬・溶媒・消耗品・器具類として30万円、共通消耗品類であるチップ・チューブ類として20万円の使用を予定している。また、学会などの研究成果発表ならびに情報収集を行うために必要な経費として国内・外国旅費、学会参加費(国内および外国)、その他の項目として学術論文誌への研究成果発表のための費用(英文校正及び投稿料)30万円の使用を予定している。
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