翻訳後修飾のひとつである糖鎖付加した糖タンパク質の構造解析を複雑にしているのは、その糖鎖構造情報、付加位置、タンパク質同定をすべて行わなければいけないことである。そこで、本研究課題では、質量分析でこうした解析を行うことを前提とし、まずは、糖鎖構造情報を複雑にしている以下のような代表的な異性体、1)フコシル化の位置異性体(α1-2やα1-3やα1-4など)や構造異性体(H抗原やルイス抗原など)に関する情報、2)シアリル化の位置異性体(α2-3とα2-6)に関する情報、3)硫酸化の付加位置に関する情報を中心にその断片化情報の収集に努めた。有益な構造情報がどういった断片化(低エネルギー衝突誘起解離:CID、高エネルギー衝突誘起解離:HCD、電子移動解離(ETDなど)から得られるかについては分からなかったため、基本となる位置・構造異性体糖鎖(非修飾体・メチル化体)を用いた各断片化について情報収集を行い、特に識別困難な異性体を識別するのに有用となる断片化パターン・ルールなどの抽出を試みた。これまで蓄積した情報をもとに、本年度では非修飾体の糖鎖とCIDの組み合わせでは識別できなかった異性体についても、識別可能な糖鎖の修飾法と断片化手法の組み合わせについて新たに見出すことができた。さらに、最終目標であったN-結合型およびO-結合型糖ペプチドの標準品を用いた解析(糖鎖の付加位置と結合している糖鎖構造解析)への応用については、糖鎖では有益であった修飾法がうまく適応できなかったこともあり、今後こうした課題については解決していく必要がある。基本構造として使用した種々の糖鎖異性体から得られた断片化情報は今後の構造解析において貴重なデータになり得る。
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