細胞膜は脂質二重層構造から成るが、その外層と内層で脂質組成が異なっている。その様な「脂質非対称」の状態を適切に維持・管理することは細胞の生存に必須であり、その部分的な破綻でさえ様々な疾病や生活習慣病を引き起こす。 本研究では、脂質非対称の状態をモニターするセンサータンパク質の同定を試み、Rim21 が細胞膜上で脂質非対称を感知するセンサーである事を突き止めた。さらに、Rim21がDfg16やRim9といった膜貫通タンパク質とセンサー複合体を形成していることを明らかにした。Dfg16とRim9はセンサーの本体であるRim21を細胞膜へ輸送するのに必要な補助因子であった。私達はこれまでに「細胞が脂質非対称の状態をモニターする仕組み」と言う新規概念を提唱してきたが、本研究によるセンサータンパク質の同定によって、その新規概念が具現化された。 また、脂質非対称が乱れた際に、細胞は応答を起こし、それを修繕すると考えられるが、乱れた脂質非対称への細胞応答の俯瞰図は全く見えていなかった。そこで、DNAマイクロアレー解析を行い、脂質非対称が乱れた際に誘導される遺伝子群を網羅的に検出した。その結果、脂質非対称の乱れに応答して糖代謝の変化、エンドサイトーシスの変化などが生じている可能性が浮上した。 また、脂質非対称の乱れに応じて誘導される機能未知の膜貫通タンパク質群に注目し、その中でもOpt2というタンパク質が脂質非対称の乱れに対する細胞応答で中核的な働きを担っていることを見出した。その後の解析により、Opt2がゴルジ体と細胞膜を行き来しながら、ホスファチジルエタノールアミンやホスファチジルセリンなどの脂質の内外層間移動を行い、脂質非対称の乱れを修繕する可能性を示唆した。 ここまでの研究をまとめ、投稿論文の発表および学会発表を行った。
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