本研究課題ではこれまで、一次線毛の短縮を引き起こす要因として、Tctex-1リン酸化とそれに引き続くアクチン重合およびエンドソーム形成が考えられることを示して来た。今年度は、短縮におけるイノシトールリン脂質代謝酵素の関与を検討し、また短縮過程において一次線毛周辺でエンドソームが形成される微小領域の同定を試みた。 (1) イノシトールリン脂質は、アクチン重合およびエンドソーム形成を制御する細胞内脂質として知られる。特に、イノシトールリン酸 5-ホスファターゼであるINPP5Eは一次線毛の形成に関与することが報告されているものの、その短縮における役割については明らかにされていなかった。そこで本研究では、ヒト網膜色素上皮 (RPE-1) 細胞に発現するINPP5Eをノックダウンしたところ、一次線毛の短縮が促進される結果が得られた。この結果より、健常な細胞について考えると、INPP5Eが一次線毛の短縮に対して抑制的に関与する可能性が考えられた。 (2) 一次線毛の短縮過程でエンドソームが形成される細胞内微少領域を見出すため、エンドソーム形成に必須のクラスリン分子に注目した。その結果、クラスリン軽鎖および重鎖が一次線毛の周囲に局在することが分かった。すなわち、ciliary pocketと呼ばれる一次線毛を取り囲む膜ドメインにクラスリンが局在しており、エンドソームを形成することで一次線毛の短縮に繋がる可能性が考えられた。
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