タンパク質のN型糖鎖修飾は、Sequon配列と呼ばれるAsn-X-Ser/Thr(XはPro以外のアミノ酸)のAsn残基に施される。ただし、幾つかのタンパク質においては、Sequon配列ではないAsn残基(非Sequon配列)への糖鎖付加が見出されている。これまでSequon配列へのN型糖鎖修飾については、その修飾機構や疾患との関わりが報告されてきたが、非Sequon配列への糖鎖付加に関しては、その意義などは不明のままである。 本研究を通して、我々はまず、GPR109Aの各種アミノ酸点変異体のN型糖鎖修飾をウエスタンブロット解析により比較して、GPR109Aが有する唯一のN型糖鎖修飾部位が非Sequon配列であることを明らかにした。次にその糖鎖修飾の細胞内での重要性を明らかにするために、糖鎖欠損型GPR109Aを用いたFlow cytometry解析を行い、この糖鎖修飾が正常な受容体膜発現に重要であることを見出した。また、オリゴ糖転移酵素のsiRNAを用いた解析により、非Sequon配列へのN型糖鎖修飾に寄与するSTT3アイソザイムはSTT3Bであることを明らかにした。さらにこの糖鎖修飾部位が非Sequon配列であることの必要性を細胞内シグナル伝達の観点から明らかにした。具体的には、非Sequon配列をSequon配列に置き換えたGPR109Aは、N型糖鎖修飾を受けて正常な形質膜への発現を示すものの、ニコチン酸刺激依存的な細胞内シグナル伝達能は野生型と比較して顕著に減弱していることがわかった。近年GPR109Aは抗肥満作用に寄与するGPCRとして注目されており、本研究の成果が脂質異常症の新規の病因解明と治療戦略のための糸口となることが期待される。
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