研究課題/領域番号 |
23770140
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 勝良 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (70508366)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 酵母 / シグナル伝達 |
研究概要 |
浸透圧応答を制御する出芽酵母HOG MAPキナーゼ経路の上流に存在するSHO1経路の活性化には1回膜貫通型膜蛋白質Opy2と4回膜貫通型膜蛋白質Sho1とが必須である。Opy2とSho1との結合に関する共沈実験を行った。まずOpy2とSho1の膜貫通領域(TM)内のアミノ酸を系統的に別のアミノ酸に置換した変異体をそれぞれ作成し、Opy2とSho1との結合に影響を与えるアミノ酸の特定を行った。その結果、Opy2 TM内の3つのアミノ酸(I100, V101, Y113)に変異を導入すると、Opy2とSho1との結合レベルが低下することがわかった。Sho1 TM4内の2つのアミノ酸(A127, L131) に変異を導入すると、Opy2とSho1との結合レベルが低下することがわかった。次にOpy2とSho1との結合レベル低下とHOG (SHO1)経路活性化との関係を8xCRE-lacZレポーターアッセイによって定量的に調べた。その結果、Opy2 I100に変異を導入した変異体やSho1 A127あるいはSho1 L131に変異を導入した変異体を用いると、高浸透圧ストレスによるHOG (SHO1)経路活性化レベルが低下することがわかった。また、細胞内C末領域の一部を欠失させた1回膜貫通型浸透圧センサー膜蛋白質hkr1変異体と I100に変異を導入したopy2変異体とを共発現させると、高浸透圧ストレスによるHOG (SHO1)経路活性化レベルが著しく低下することがわかった。これらの結果から、3つの膜蛋白質Hkr1, Opy2, Sho1のTM間や細胞内領域間での相互作用がHOG (SHO1)経路活性化に深く関わっていると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出芽酵母における浸透圧応答を制御するHOG MAPKカスケードの上流に存在するSHO1経路の活性化機構において、高浸透圧ストレスによって浸透圧変化を感知するセンサーを含めた4つの膜蛋白質Msb2, Hkr1, Sho1, Opy2がどのように相互作用して細胞内にシグナルを伝えるのかを理解することを大きな研究課題として掲げている。研究が先行しているOpy2とSho1との相互作用を制御する機構について、今年度1年間を通じて行った研究の結果、Opy2とSho1との結合に影響を与える膜貫通領域内のアミノ酸の特定に成功し、またOpy2とSho1との結合がHOG(SHO1)経路活性化に必要であることを明らかにすることができ、目標達成に向けて前進していると思われる。今年度に得られた実験結果はさらなる研究に向けての弾みとなり、現在、4回膜貫通型Sho1 のTM内のアミノ酸と1回膜貫通型Opy2 TM内のアミノ酸をそれぞれ系統的にシステインに置換した変異体を作成し、in vitroおよびin vivoにおけるOpy2とSho1とのクロスリンク実験を行う準備を進めている。in vitroおよびin vivoにおけるOpy2とSho1とのクロスリンク実験を進めることによって、浸透圧ストレスによるHOG (SHO1)経路活性化機構のうち、Opy2とSho1との相互作用を制御する機構が明らかになるものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
浸透圧ストレスによるOpy2とSho1との相互作用を制御する機構を明らかにする上で、昨年度はOpy2とSho1との結合に関する実験は限定的であった。今年度は、昨年度得られた実験結果をもとに大きく発展させたOpy2とSho1との結合実験を進める予定であり、その分使用する研究費が多くなることが予想される。今年度予定しているクロスリンク実験では、まず1回膜貫通型膜蛋白質Opy2の膜貫通領域(TM)内のアミノ酸と4回膜貫通型膜蛋白質Sho1のTM1内からTM4内までのアミノ酸をシステインに置換した変異体をそれぞれ作成する。これらのシステイン変異体を用いて、in vitroおよびin vivoにおけるOpy2とSho1とのクロスリンク実験を行い、クロスリンクするOpy2システイン変異体とSho1システイン変異体との組み合わせを探す。その際、用いるOpy2コンストラクトとSho1コンストラクト、クロスリンカー試薬の種類、使用濃度、反応時間など、クロスリンク実験を最適に進めるための実験条件にも十分な時間を割く予定である。同じ研究室では、Sho1がどのような構造をとっているのかを明らかにする実験が進められており、Sho1構造から得られる情報とクロスリンク実験結果から得られる情報とを合わせることによって、Opy2とSho1とがどのTMを介してどのように結合しているか、また高浸透圧ストレスによるOpy2とSho1との動的結合などが明らかになるものと考えられる。Opy2とSho1との結合が明らかになれば、浸透圧センサー膜蛋白質Hkr1とMsb2がOpy2-Sho1複合体にどのように関わるかのさらなる発展的研究が計画でき、最終的に4つの膜蛋白質が関わる細胞膜上で起こる現象への理解に繋がるものと考えられる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究計画に沿って進める実験では、クロスリンカー試薬、ウエスタンブロットに用いるHA抗体やMyc抗体、器具類、チューブ、チップ類などが必要である。酵母を用いた分子生物学的、分子遺伝学的実験では、酵母の液体培養および寒天プレート上での培養が必須であり、このために培地調整用の大量の試薬、培養チューブ、培養フラスコ、プレート用シャーレなどが必要である。システイン変異体の作成をはじめ、様々なプラスミドの構築が本研究では欠かせないが、こうしたプラスミド構築に各種試薬(プラスミド調整キットなどを含む)、酵素類、オリゴDNA(PCR用、シークエンス用)が必要である。これらの消耗品の購入に研究費を使用する予定である。
|