一酸化窒素還元酵素(NOR)は、土壌バクテリアや病原因菌などが嫌気的環境で行う硝酸呼吸において、一酸化窒素を亜酸化窒素に還元する反応を触媒する膜貫通型酵素である。本研究者はすでに、チトクロムcより電子を受容する緑膿菌由来NOR(cNOR)に関し、モノクローナル抗体との共結晶化を行うことで、休止状態の立体構造を2.7Å分解能で決定することに成功した。本研究では、さらに、反応中間状態である還元型や基質あるいは基質アナログとなるガス分子結合型結晶構造を決定することにより、NORが行う一酸化窒素の還元触媒反応機構を原子レベルで解明することを目的としている。 NORは2つの2原子分子による化学反応を触媒する。そのため、基質結合状態あるいは基質アナログ結合状態を解明するためには、より高い分解能で構造決定することが必須である。そこで、当該年度では、構造解析の分解能を高めることを主眼に、結晶化手法の再検討を行った。脂質キュービック相を用いた結晶化では、脂質との混合後すぐに凝集してしまい、結晶化することはできなかったが、脂質バイセルを用いた結晶化法では、抗体との複合体を用いることで0.1mm角の結晶を得ることができた。しかしながら、得られた結晶の分解能は10Åと低く、構造解析には適していなかった。また、抗体FvフラグメントをBrevibacillus発現系を用いて大量調製し、cNOR-Fv複合体での結晶化を試みたところ、さまざまな条件で結晶が得られた。初期スクリーニングで得られた結晶で3Åを超える分解能を示す結晶が得られたことから、結晶化条件の最適化を行うことで、より良い分解能での構造決定が可能となるものと期待される。
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