研究課題/領域番号 |
23770152
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
柳澤 幸子 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 助教 (60557982)
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キーワード | 生体エネルギー変換 / 振動分光 / 酸素活性化 / 金属タンパク質 / 吸収スペクトル |
研究概要 |
本研究では、呼吸鎖電子伝達系末端において酸素分子を水にまで還元する反応と共役して、プロトンを膜の内側から外側へと能動輸送するチトクロム酸化酵素(CcO)の酸素還元反応とプロトン輸送反応、およびそれらの共役の仕組みの解明を目指す。酸素還元反応のいくつかの反応中間体が振動分光法により既に明らかにされているが、本研究では、それらについて吸収スペクトルを決定する。理由として、吸収スペクトルの測定は他の手法と組み合わせる事が容易であり、共役機構解明の上で必要不可欠な動的構造解析を種々の手法を用いて行なう時に、酸素還元反応のどの段階を検出しているのかを知る基準となるからである。本研究では酵素反応追跡用人工心肺装置を用い、時間分解共鳴ラマン分光法によりウシ心筋由来 CcOの酸素還元反応を追跡する。この装置を使うと比較的少ない試料で測定が可能であり、限られた量の試料を用いて質の高いスペクトルが得られる。実験は、ラマン検出用レーザー光と同軸に吸収スペクトル測定用白色光を重ね、酸素還元反応の開始後同時刻においてラマンスペクトルと吸収スペクトルを測定し、それぞれの吸収スペクトルが酸素還元反応のどの段階のものであるのかを明らかにし、それによって反応中間体の吸収スペクトルを決定するというものである。昨年度において人工心肺装置の改良と測定条件の検討により必要とする酵素試料を減らし、ラマン及び吸収スペクトルの同時測定のための光学系をほぼ確立したが、今年度においては吸収スペクトルを測りうる波長領域の拡大と白色光源の光量を上げることを課題とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度においては昨年度ほぼ完成したラマンおよび吸収スペクトルを同時に測定するための光学系の改良を行った。これは、サンプル点における光量をより多くすることが目的であった。その点において目的は達成された。しかし、これまでに報告されているCcOの反応中間体の寿命と異なるデータが得られたため、その原因の究明が必要となった。また、レーザーシステムが期せずして不安定化しその調整に時間を要したため、ラマンスペクトルの測定が出来ていない。このため、ラマンスペクトルと吸収スペクトルの同時測定を行い、本年度において反応中間体の吸収スペクトルを決定する当初の目標は達せられていない。少し遅れたが25年度中に達成する見通しである。一方で、反応中間体の寿命が異なる点について調べる上で緩衝液の水素イオン濃度を変更する実験を試みたところ、これまで一本と考えられていた鉄-ヒスチジン伸縮振動に由来するラマンバンドを二本検出した。このことは、CcOの酸素還元反応とプロトンポンプンプ共役機構を理解する上で意義深い。この点については、想定外の進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
研究室の移転が年度末に行われ、システムが部品にまで分解・梱包されており、これらを再度組み立てる。これを一刻も早くに行い、システムに最適な条件を確立する。確立後はラマンスペクトルと吸収スペクトルの同時測定を繰り返し行い、各中間体の吸収スペクトルの決定を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
システムの再組み立ておよび最適化に必要な部品の購入。成果発表や学術調査のための旅費。
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