アストロサイト容積調節機構における酸素依存的アクアポリン4(AQP4)の機能制御機構という課題のもと、脳虚血時に水分子が果たす役割をAQP4の機能制御を通して解明することが本研究の目的である。脳の機能を維持するために重要な機構として細胞容積調節機構がある。アストロサイトは低浸透圧刺激などで膨張しても、細胞容積調節機構により正常の容積に戻る。低酸素下等でこの機構が破綻すると脳浮腫形成につながる。細胞容積が正常に戻る際にはAQP4を介した水分子の輸送制御が必要であると考えられるが、その分子調節機構は明らかでない。昨年度は脳梗塞モデルマウスを野生型とAQP4KOマウスで作製し、脳の浸透圧物質やエネルギー代謝産物の網羅的定量解析を行った。その結果、浸透圧物質の濃度変化は野生型とAQP4KOマウスでは差が認められなかったものの、野生型の患側で減少したATPがAQP4KOマウスでは維持され、GSHがAQP4KOマウスでは増加が認められなかった。すなわち、AQP4KOマウスでは脳梗塞の細胞ダメージが軽減されているという証拠を得た。得られた証拠をもとに、本年度はAQP4KOマウスにおいて脳のダメージ軽減におけるアストロサイトの役割を確認するため、代謝産物や浸透圧物質をマウス脳の切片を用いて代謝解剖学的解析を試みた。マウスの脳梗塞モデルを作成し、in situ凍結法によって凍結させたマウスの脳から凍結切片を作成した。作成した凍結切片にマトリックスをスプレーで塗布し、MALDI-TOFMSでアニオンの代謝産物の検出を行う系を構築した。特にマトリックス(9AA)を塗布する技法の検討に時間を割き、ケミカルプリンター法とスプレー法の比較検討を行った。その結果、スプレー法でムラなくマトリックスの塗布を行える条件を見出した。
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