研究課題/領域番号 |
23770161
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 陽子 独立行政法人理化学研究所, 城生体金属科学研究室, 特別研究員 (60584571)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / 細菌感染 / 受容体 |
研究概要 |
申請者はもともと細菌感染に関連して、細菌と宿主細胞の相互作用に大変興味があった。ここで、細菌の中でも、重篤な感染症の原因菌であるジフテリア菌では、宿主(感染先)の鉄濃度を感知し、その鉄を菌内取り込むことにより、病原性因子の合成に役立てて、感染・増殖している。この際、生体膜上に存在する膜タンパク質ChrSが、シグナル(鉄)受容という重要な働きを担っている。よってこの「膜タンパク質ChrSによる宿主生体内の鉄感知機構」は、「細菌感染時の、細菌と宿主細胞の相互作用の第一段階」のモデルとして考えられた。よって、ChrSがどのように鉄濃度を感知し、その感知した情報をジフテリア菌内に伝達しているのかを、原子レベルで解明することとした。この成果は、細胞膜上でのシグナル受容研究を進展させ、新規抗菌剤開発に貢献することができ、生物学的に重要である。具体的な研究方法としては、以下の様に行った。1) ChrS/A膜タンパク質複合体の結晶化条件のスクリーニング 2) ChrS/A膜タンパク質複合体のナノディスクへの再構成 3) 2)のX線小角散乱による構造変化の検出、4) 2)の分光計測によるヘムの状態の検出 5) ChrS変異体を用いた複合体のナノディスクを用いた分光計測による野生型との比較
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
申請者が産休産後休暇と育児に係る欠勤をH23.6.23 ~ H24.3.31まで取得していた為、全体に研究の進展が予定よりやや遅れている。1) ChrS/A膜タンパク質複合体の結晶化条件のスクリーニングについては、各種界面活性剤や基質アナログを用いて検討を行った。いくつかの条件で、結晶様物質が得られたが、X線回折によるデータ取得には至らなかった。 2) ChrS/A膜タンパク質複合体のナノディスクへの再構成は、単分散のサンプルを調整する系を確立できた。その結果、3)X線小角散乱による構造計測を行うことができて、ナノディスクのディスク上の構造の中にChrS/A複合体が埋め込まれていることが示され、構造変化検出のための予備的な結果を得ることができた。4) 2)の分光計測によるヘムの状態の検出ヘムの各種分光測定については、ヘムの紫外可視吸収測定、円偏光二色性(CD)測定、ラマれた。 5) ChrS変異体を用いた複合体のナノディスクを用いた分光計測による野生型と比較では、ChrS中の21番目のヒスチジン(His21)に変異を入れた時のみ、構成的に高いChrSの自己リン酸化活性が見られた。よって、このHis21がヘムの軸配位子であることが示唆された。この変異体をナノディスクに再構成して、ヘムの各種分光測定を行ったところ、変異型のChrSではヘムがアポ状態に近いスペクトルを示すことが分かった。以上により、当初の予定より遅れているものの、全体としては目的は8割程度が達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたChrS/Aの結晶化については、上述の通り難行しており、方針の転換を検討している。結晶化の条件検討と並行して行ったナノディスクへの再構成系が予想以上にうまくいき、単分散試料の調製を行うことができた。これにより、X線小角散乱測定および各種分光計測によってヘム結合様式は、6配位型で、ChrSの21番目のヒスチジンが軸配位子であることが示唆されるデータが得られつつあり、「膜タンパク質ChrSによる宿主生体内の鉄感知機構」については、一定の結論がでてきた。よって今後は、1. ナノディスクに再構成系を用いたヘムの各種分光測定や、X線小角散乱のデータの質(S/N比)を改善し、より明確なデータを得られる様に、もう少し測定を継続して行う。結晶化の条件検討については、引き続き、各種界面活性剤や基質アナログ、各種沈殿剤、結晶添加剤の組み合わせのスクリーニングを行う一方で、ナノディスク再構成系を利用した結晶化の可能性も検討する。一方で、再構成系を用いた分光計測をさらに発展させて、より生理的な条件での分光計測を行うことを検討している。特に、ラマン顕微鏡など従来の分光計測手法をベースにしたイメージング手法が急速に発展していることから、これらの手法を応用して、生体イメージングの手法を積極的に取り入れる方向で研究を進めていきたいと考えている。それにより、「細菌感染時の、細菌と宿主細胞の相互作用の第一段階」の研究から更に段階を進めて、「細菌感染時の、宿主細胞の応答」についても研究を広げ、構造生物学と細胞生物学の境界領域に切り込んでいきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
産休産後休暇および育児に係る欠勤をH23.6.23~H24.3.31まで取得していたため、次年度使用額が生じた。そのH23年度未使用額とH24年度の研究費とを合わせて、以下の試薬・消耗品購入に使用計画予定である。・ChrS/Aの結晶化に必要な、結晶化スクリーニングキット等の試薬、消耗品の購入。・ナノディスクへの再構成に必要な、界面活性剤、大腸菌リン脂質抽出物、合成リン脂質等の試薬・消耗品の購入。・新たに研究方策に加えたいと考えている生体イメージングの研究開始に必要な、実験試薬・各種消耗品の購入。
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