研究課題/領域番号 |
23770166
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研究機関 | (財)先端医療振興財団 |
研究代表者 |
前田 良太 (財)先端医療振興財団, その他部局等, 研究員 (50432399)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / シグナル伝達 / 生理活性 / 蛋白質 / 糖鎖 |
研究概要 |
ベータクロトーはおもに肝臓の肝細胞で発現している、グリコシダーゼ様ドメインを二つ持つI型の膜タンパク質である。アルファークロトーとともにクロトーファミリーに属する。 胆汁酸合成の制御をとおした脂質の取り込み量の調整など、広くエネルギー代謝に関わる内分泌性タンパク質のひとつとして、線維芽細胞増殖因子(FGF)―19が同定された。このFGF―19は小腸(より胃から遠い回腸末端部に発現が多い)の上皮細胞に発現しており、門脈中を循環して肝細胞にシグナルを受け渡す。そのシグナルを伝えるために、ベータクロトーを必要とする。 ベータクロトータンパク質はアルファークロトータンパク質同様に、糖鎖を認識するレクチン構造をもつ(糖結合タンパク質のことレクチンとよぶ)。そのため、その認識する糖鎖構造がFGF19にもあるものと考え、これまで研究を進めてきた。本研究課題において、特殊糖鎖特異的抗体を用いることで、ベータクロトーが特異的に認識する糖鎖構造を見出すことに成功した。 この発見は、クロトーファミリータンパク質がレクチンとしてどのように、FGFシグナルを伝えるのかの理解につながった。それだけでなく、アルファークロトーはナトリウムカリウムポンプ複合体との結合にも、同様の糖結合機構を使っていることが分かった。つまり、ひとつのタンパク質が、どのようにして複数の分子(FGFファミリーとナトリウムカリウムポンプ)と相互作用するのかについて、合理的に理解することができた。 本課題での発見は今後、ナトリウムカリウムポンプ複合体のような生理分子がどのように細胞膜表面まで調節的に運ばれるか、という生理学上の未解決な問題を解く糸口となる。つまり、糖転移酵素による糖鎖修飾の制御が、生理分子の輸送を調節していることがわかった。この成果をもとに、糖鎖の生物学的な意義を解明する研究が広く行われることになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の研究目的として、線維芽細胞増殖因子(FGF)―19のホルモンとして十分に高い活性をあたえる、翻訳後修飾(おもにO型糖鎖修飾)を明らかにすることを掲げた。換言すれば、その糖鎖修飾とはベータクロトータンパク質が認識する糖鎖構造であり、それを明らかにすることでもある。 生体内に比較的少なく存在する、ある特殊な構造をもった糖鎖に対する特異的抗体を用いた研究から、ベータクロトータンパク質が認識する糖鎖構造をほぼ特定するまで至った。 さらに期待以上の成果として、ナトリウムカリウムポンプのベータサブユニットとアルファークロトーの結合にも、同様にN型糖鎖修飾が重要な役割を果たしていることを明らかにすることができた。このきわめてまれなN型糖鎖修飾は、腎臓においてナトリウムカリウムポンプのベータサブユニットに特異的になされており、この糖鎖修飾を目印としてアルファークロトーが糖鎖を認識していることがわかった。 しかしながら、これらの糖鎖の詳細な構造(糖の結合の向きや修飾基の位置)は未だ確定できていない。そのため、今後はFGF―19を培養細胞に大量合成し、さらに大量に精製をすることで、核磁気共鳴法(NMR法)による糖鎖構造の確定をおこなわなければならない。このための、培養細胞をもちいた大量合成、および大量精製系を立ち上げた。 さらに、ニワトリを抗体産生動物として用いて、マウスのFGF―19にたいする特異的抗体を作製した。最新のニワトリモノクローナル抗体作成技術を用いて、そのハイブリドーマ細胞を樹立することができた。このモノクローナル抗体をもちいて、マウスにおけるFGF―19の発現部位を詳細に知ることができた。さらにこの結果、マウスの小腸の上皮細胞から直接、生体内のFGF―19を精製することができるようになり、本研究課題の研究目的である、糖鎖構造の確定へと大きくすすめるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
線維芽細胞増殖因子(FGF)―19の修飾糖鎖構造を核磁気共鳴法(NMR法)で確定する 本研究課題を通じて、マウスのFGF―19を特異的に認識する抗体を作製することに成功した(「現在までの達成度」の項参照)。この抗体を用いて、マウスの小腸上皮細胞から、生体内に存在するFGF―19を大量に精製することをこころみる。とくに、このニワトリモノクローナル抗体での組織染色から、マウスの小腸の回腸末端部において、FGF―19のタンパク質が高発現している上皮細胞を見出すことができた。そのため、このマウスの回腸末端部の小腸上皮をスタート実験材料にして、ここからマウスの『エンドジェナス』なFGF―19の精製をはじめる。 また、特殊糖鎖特異抗体を用いた解析を通じて、ベータクロトーが認識する糖鎖構造が分かってきたことから、汎用される培養細胞にその糖鎖修飾酵素群を発現させて、FGF―19に糖鎖を付加することをこころみる。つまり、培養細胞において、生理活性の高いFGF―19を人工的に造り出す方法を開発する。その際に開発された「ほ乳類複製開始点」「マトリックス結合領域」遺伝子配列をFGF―19遺伝子を発現する培養細胞へと組み込む。こうすることで、従来の約100倍の発現をもつ安定発現株を得ることを目指す(株式会社トランスジェニックへの委託)。 こうして得た精製FGF―19タンパク質から、ヒドラジン分解にて糖鎖を切り出してPAラベル化する。低速液体クロマトグラフィー(平成23年度の本研究課題の予算にて購入済み)をもちいて、PAラベルを指標にこの糖鎖を分離精製する。 精製した糖鎖を核磁気共鳴法(NMR法)で測定することで、その原子レベルでの構造を明らかにする。この構造を確定する上に必要な、複数の標準糖鎖を有機合成する。これらの測定と合成はいずれも、株式会社ナード研究所と株式会社東京化成に実績があり委託する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度上半期に、マウスの小腸上皮細胞から、内在性のFGF―19を大量に精製する。 この実験を遂行するために、イオン交換カラムとゲル濾過カラム(消耗品)が必要である。また、ニワトリモノクローナルFGF―19特異的抗体を培養ハイブリドーマ細胞から数ミリグラム単位で精製する。そのための培養用の器具とプロテインGカラム(消耗品)が大量に必要となる。 研究を遂行する上での課題として、精製されたラベル化糖鎖を1ミリグラム以上必要とする。その対応策として、「ほ乳類複製開始点」「マトリックス結合領域」遺伝子配列を導入する方法で、従来の方法の約100倍のタンパク質を発現する培養株の樹立を実現する(「今後の研究の推進方策」の項参照)。この方法によれば、精製タンパク質を100ミリグラム程度以上得ることが十分に可能であり、その精製タンパク質からヒドラジン分解により、精製糖鎖を1ミリグラム程度以上得ることが期待できる。 さらに、FGF―19の修飾糖鎖の構造を核磁気共鳴法(NMR法)で確定するために、複数の測定用の標準糖鎖を合成する必要が生じた。この糖鎖を有機合成に係る費用(株式会社東京化成に委託)にあてる。すでに合成の担当者との打合せを行なっており、合成が可能であることが確認できた。 また、糖鎖の解析に核磁気共鳴法(NMR法)を用いることとなったため、この測定装置の使用に係る費用(株式会社ナード研究所に委託)が発生する。NMR測定装置をもつナード研究所は、当研究室(先端医療センター)から徒歩圏内にあるため、サンプルを直接持ち込んでその日の内に測定することができるが(交通費や運搬費がかからない)、サンプルの測定に係る実費を測定費用として支払う。 糖鎖の構造が確定した段階で、研究成果を発表する。論文の執筆、投稿にかかる英文校正料、投稿に係る諸費用へ当てる。また、糖鎖研究の学会・研究会へ参加する。
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