研究課題/領域番号 |
23770168
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
新井 由之 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (20444515)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 金属増強効果 / 1分子観察 / 蛍光タンパク質 / ImageJ |
研究概要 |
本研究の目的は、金属増強効果により長時間・安定して蛍光プローブ1分子を簡便に再現性良く観察することができるシステムを開発することである。特に、これまで1分子観察に用いることが出来なかったような、蛍光量子収率の低い青色系の蛍光プローブの1分子可視化観察技術を確立することで、多色同時1分子観察を実現する。平成23年度において、まずは金属コートされたガラス基板の作成・改良を行った。当初銀のみを銀鏡反応により非特異的にガラス基板上に固定化させていたが、銀ナノ粒子の粒子径がばらばらであること、ガラス基板上への吸着密度が低く不均一であり再現性よく作成することが困難であった。そこで、直径数nm程度の金粒子をアミノシラン化したガラス表面に均一に固定化し、金を核とした銀ナノ粒子を固定化させることにより、粒子径・吸着密度ともに均一であり、さらに還流などの力学操作に対しても安定なガラス基板の作成に成功した。また、1分子レベルでの蛍光観察を実現する顕微鏡システムの構築も行うと共に、1分子の蛍光輝点を自動で解析する、ImageJ上で動作可能な解析システムの作成をした。作成したガラス基板を用いて、シアン色の蛍光タンパク質CFPを1分子レベルで観察したところ、蛍光強度・褪色時間ともに数倍程度増強させることができた。CFPは、カルシウムイオンセンサーなどにおいてFRETの供与体として広く用いられているが、低い蛍光強度・短い蛍光褪色時間のために1分子観察には不向きであった。金属により蛍光シグナルを増強させることにより、これまで作成されてきた多くのCFPをベースとするセンサータンパク質の1分子レベルでの解析を行うことが期待される。これは、特に細胞内において、細胞内環境を出来るだけ乱さずに観察する目的としても非常に重要であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画において、金属増強効果を利用した安定した1分子計測観察系の構築、特に青色系蛍光分子の観察を目的としている。平成23年度において、金を核とした銀ナノ粒子基盤を用いることにより、シアン色蛍光タンパク質であるECFPの1分子観察行い、蛍光強度・蛍光褪色時間の増大をそれぞれ観察することができた。また、蛍光標識したEGF分子の細胞膜上における動態観察を、金属コートした基板上において行うことに成功した。本観察を可能とする全反射照明顕微鏡の構築及び解析システムの構築については、平成24年1月~の研究室引越しの為若干の遅れが生じているが、できるだけ前倒しして研究を進めてきたため、影響は軽微であると考えられる。以上を鑑みて、研究計画は概ね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き、金を核とした銀ナノ粒子基盤を用いた1分子蛍光観察を行う。特に、青色系蛍光分子(CFP等)や緑色(GFP)、オレンジ色(Cy3)等の蛍光分子を用いた多色同時観察システムの構築をすすめる。現在のシステムでは2色同時観察が限度であるが、これを3色・4色同時観察可能なシステムへと改良する。本システムにより、CFP-YFPをベースとした種々のセンサータンパク質の1分子レベルの観察や、細胞膜直下におけるシグナル伝達系の可視化解析をすすめる。平成23年度において、Alexa488標識したEGF分子の細胞膜上での動態観察に成功したが、Alexa488の蛍光量子収率は非常に高く、大きな金属増強効果を期待することができない。よって、Alexa488以外の明るくかつ蛍光量子収率の低い蛍光分子(Cy3等)による標識及び観察を行なっていく。1分子蛍光観察において最もネックとなる点に輝点データ解析の困難さが挙げられる。平成23年度において、解析ソフトImageJ上で動作する自動多輝点追尾ソフトの開発に成功した。本ソフトを、ダブルビュー画像などの多色画像にも適応可能とするべく改良を行う。また、LabViewによる顕微鏡制御の自動化により、蛍光・発光分子と光制御タンパク質の同時観察等も行うことができる、汎用性の高いシステム構築も行う。また、平成23年度得た、既存の蛍光タンパク質に比べ蛍光褪色時間の長い蛍光変異体のさらなる改良を行うことで、より安定した蛍光1分子観察可能なプローブの開発も積極的に進めていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に未使用額が発生した理由は、平成24年1月~3月にかけ、研究代表者の所属する研究室の異動があり、事実上実験が行えない状況となった為である。発生した未使用額は、光学部品の購入に全て充てる。
|