研究課題/領域番号 |
23770170
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小田 賢幸 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20569090)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / 三次元再構成 / 鞭毛 / ダイニン / 構造生物学 / 細胞生物学 |
研究概要 |
鞭毛は発生、生殖、脳神経、呼吸器など広範な機能を持つ細胞小器官で、その重要性は近年大きく脚光を浴びている。この鞭毛を動かすモータータンパク質ダイニンの運動性がどのように制御されているのか、その中間鎖に注目して細胞生物学および構造生物学の観点から解明することが本研究の目的である。 平成23年度、我々は2つの中間鎖IC1とIC2にビオチン化タグを付加し、それらを緑藻クラミドモナスで発現した。ビオチン化された外腕ダイニンと微小管の三次元構造をクライオ電子顕微鏡を用いて再構成し、IC1とIC2の末端がダイニン-微小管複合体においてどこに存在するかを観察した。IC1のアミノ末端とIC2のカルボキシル末端はそれぞれβ重鎖とγ重鎖に近接しており、IC2のアミノ末端は外腕-内腕架橋と呼ばれる構造の根本付近に存在していることが分かった。これは次に述べるダイニン間相互作用の存在を示唆している。 IC2のアミノ末端にビオチン化タグを付加した場合、それを発現しているクラミドモナスの遊泳速度が低下することが観察された。外腕ダイニンは鞭毛運動の周波数を、内腕ダイニンは振幅を決定する。今回の実験では外腕ダイニンの中間鎖に変異を導入したにもかかわらず、鞭毛運動の周波数は野生株よりも上昇し、振幅が減少した。これは外腕ダイニンと内腕ダイニンの間に機能的相互作用が存在することを示す初めての発見である。周波数と振幅だけでなく、逆方向湾曲が顕著に小さくなることも観察された。このような表現型を示す変異株はこれまで報告されておらず、鞭毛運動における新規の機構を示唆している。 これらの発見は外腕ダイニンの構造と機能だけでなく、鞭毛運動全体を制御する機構の解明に大きく寄与する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究によって以下の成果が得られた。1.外腕ダイニン中間鎖の変異株を作成した。:中間鎖IC1とIC2にビオチン化タグを付加したものや、部分的に切除したもの、他のアミノ酸残基に置換したものなど、多くの変異株を作成した。これらのうちいくつかは非常に興味深い表現型を示した。2.中間鎖の位置を三次元的に同定した。:ビオチン化タグを付加した中間鎖を外腕ダイニンに取り込ませ、ダイニン-微小管複合体を作成した。クライオ電子顕微鏡を用いて、その三次元構造を再構成した。ストレプトアビジンを加えることによりビオチン化された中間鎖の末端をラベルすることができた。3.鞭毛運動における中間鎖の機能を解明した。:精製した外腕ダイニンの生化学的機能分析やクラミドモナスの鞭毛運動の細胞生物学的解析を行った。その結果、ダイニン中間鎖IC2のアミノ末端にタグを付加すると外腕および内腕ダイニンの両者の機能が変化することを発見した。 この研究の目的は、ダイニンによる鞭毛運動のメカニズムを外腕ダイニンの中間鎖に注目して究明することである。中間鎖が外腕、内腕ダイニンの機能の制御に大きく関与していることが分かり、研究の主要な目標は達成された。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究により、外腕ダイニン中間鎖IC2が鞭毛運動に大きく関与していることを示す発見がなされた。平成24年度は、この発見を説明する仮説を証明することを目標とする。我々はIC2が外腕ダイニン、内腕ダイニン、そしてそれらと異なる機構、おそらくはDynein Regulatory Complex (DRC)の3機構を制御していると考えている。それを証明するためには、ICが外腕ダイニン以外のどのタンパク質と相互作用しているか以下の方法で調べる。1.大腸菌や昆虫細胞を用いてIC2の全長または部分配列を大量発現、精製する。得られたタンパク質を様々なクラミドモナス変異体の鞭毛軸糸と混合し、結合を検出する。2.クラミドモナス内でタグを付加したIC2を発現し、タグに対する抗体等で免疫沈降を行う。共沈降してきたタンパク質を質量分析で同定する。平成23年度の研究では、外腕ダイニン中間鎖IC1のある変異株において鞭毛運動の周波数が低下する表現型が観察された。この変異株の詳細な検証はまだ行われていない。IC1の機能を明らかにするため、この変異株の生化学的および細胞生物学的研究を行う。具体的には、1.IC1の変異株から外腕ダイニンを精製し、そのモーター活性を測定する。2.ウエスタンブロッティングにより、IC1変異株において外腕ダイニンの総量を野生株と比較する。3.IC1によるATPの取り込みに変化がないかアジド-ビオチン化ATPを用いて検証する。4.変異を導入した中間鎖がダイニンの構造に影響を及ぼしていないか、クライオ電子顕微鏡を用いた三次元再構成により検証する。以上の研究により得られた知見を国際学会で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
外腕ダイニン中間鎖を昆虫細胞で発現、精製する設備を整える。細胞培養用の細胞用培地、精製用のカラム等をそれぞれ計10万円程度購入する。免疫沈降で得られた未知のタンパク質を同定するために質量分析を利用する。質量分析は外部の業者に委託し、委託料として約10万円使用する。新たに同定したタンパク質の機能を解析するために、抗体を作成する。抗体作成は外部の業者に委託し委託料として約10万円使用する。クライオ電子顕微鏡による観察に必要な電顕用グリッドおよび電顕用フィルムを計20万円購入する。その他、PCR、ウエスタンブロッティング、緩衝液作成など一般実験に必要な試薬および消耗品を計約20万円分購入する。研究成果を発表するために国内、国外の学会に参加する。旅費として約40万円使用する。
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