研究課題/領域番号 |
23770175
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山本 典史 名古屋大学, 情報科学研究科, 特任助教 (30452163)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アミロイド / 分子動力学 / シミュレーション / プリオン / タンパク質 |
研究概要 |
アミロイド病は天然構造に正しく折り畳まれなかったタンパク質が凝集して線維状の構造物(アミロイド)を形成することで発症する疾患(例:アルツハイマー病・プリオン病など)の総称である。アミロイド形成の初期過程ではタンパク質の特定部位が壊れた特殊な変性状態がアミロイドの伸長や伝播を仲介する過渡的中間体の役割を果たすと考えられる。しかしながら現在、アミロイド形成中間体の具体的な構造状態を同定する明確な解析方法は確立されていない。そこで本研究課題では分子シミュレーション技術とデータ分析技術を基盤としてアミロイド形成中間体の構造解析に取り組んでいる。本年度はプリオンタンパク質の異常型形成中間体の解析に取り組んだ。プリオンタンパク質については、これまで、異常型形成中間体の産生条件が実験研究により幾つか推定されているが各条件下での具体的な構造状態の詳細は不明であった。そこで本研究ではタンパク質の構造変化を司るパラメータ(変性剤濃度・pH・温度・圧力など)を変化させながら対応する変性状態を分子動力学シミュレーションを用いて再現・収集することでプリオン形成中間体の構造状態と生成条件の関連を体系的に検証した。分子動力学シミュレーションの結果、変性剤添加および酸性条件下においてプリオンタンパク質の Helix B 末端部位が特異的に構造変性することが明らかになった。各変性状態の構造分類・配列解析を行った結果、Helix B 末端の変性部位はベータシート形成傾向の顕著なアミノ酸残基群が露出する状態であることが明らかとなった。このことから、今回のシミュレーションで得られた部分変性構造はプリオンタンパク質の異常型形成中間体の有力な候補であることが示唆される。今後、得られたタンパク質変性状態を多面的に分類・評価することでアミロイド形成中間体の構造状態の特徴を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では分子シミュレーション技術とデータ分析技術を基盤としてアミロイド形成中間体の構造解析に取り組み、アミロイド病の基本的なメカニズムを明らかにすることを目的とする。アミロイド病の一種であるプリオン病に関しても正常型プリオンタンパク質から病原性異常型への構造変化を橋渡しする変性中間体の存在が従来より唆されていたがその構造状態の詳細は未解明であった。そこで本年度は分子シミュレーション手法を用いてプリオンタンパク質の異常型形成中間体の構造解析に取り組んだ。解析の結果、変性剤添加および酸性条件下のシミュレーションで得られた部分変性状態は、アミロイド産生能としてのクロスベータ凝集傾向が高く、プリオンタンパク質の異常型構造の生成を促進するプリオン形成中間体の有力な候補であることを明らかにした。以上のように本研究課題では、本年度、プリオン形成中間体の構造解析に取り組み、構造状態・産生条件の解明に繋がる重要な知見を得ている。これまでの研究過程で用いた計算科学の各手法は、プリオンタンパク質以外のアミロイド原性タンパク質(トランスサイレチン、β2ミクログロブリン、リゾチウムなど)に対してもアミロイド形成中間体を解析する中心的な指針になり得ると考えている。したがって、現在までのところ、アミロイド形成機構の解明を目標とする本課題は目標達成に向かって順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの解析手法に基づきアミロイド形成中間体の構造情報を解析する技術基盤を確立する。確立した方法を用いてトランスサイレチン(家族性アミロイドーシスの原因)・β2ミクログロブリン(透析アミロイドーシスの原因)・リゾチウムを対象として各々のアミロイド形成中間体の具体的な構造状態および生成条件の詳細を明らかにする。同定した各々のアミロイド形成中間体に共通する構造的特徴(例:変性部位に含まれるアミノ酸配列モチーフ)などから総合的に判断することでアミロイド病の基本的なメカニズムを明らかにする。さらに、各々のタンパク質とアミロイド形成阻害剤の相互作解析に取り組むことでアミロイド形成中間体の制御機構を明らかにし、アミロイド病治療法の合理的な設計開発のための手掛かりを得る予定である。近年、プリオンタンパク質に対する異常型形成阻害剤(GN8)が発見され、細胞実験・動物実験での薬物効果が既に立証されている。そこで本研究では今後の計画として、プリオンタンパク質と異常型形成阻害剤の相互作用解析に取り組み、プリオン形成中間体の制御機構を明らかにする予定である。具体的には、プリオン形成中間体の生成条件下においてGN8が結合したタンパク質複合体の分子動力学シミュレーションを実行することでタンパク質単量体の場合と同様に変性状態の収集・分類を行う。化合物の結合前後でプリオン形成中間体の存在量がどのように変化するのかを定量的に調べることで、阻害剤の作用機序とプリオン形成中間体の制御機構を明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度、得られた研究成果について速やかに論文発表する予定であったが研究代表者の所属変更などの事情が重なってしまい、結果の最終検証と論文作成に必要な時間を十分に確保できなかった。このため、論文投稿費用として計上した一部研究費については次年度への持ち越しを行った。持ち越しを行った研究費については、今年度、論文投稿費用として使用する計画である。
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