前年度までに,リジン・アルギニン・オルニチン結合タンパク質(LAO)の複数シミュレーションの結果を「時間構造をもとにした独立成分分析(tICA)」によって解析したところ,シミュレーションごとに大きく異なっており,揺らぎの多様性が明らかとなった.一方,複数のシミュレーションで共通する遅い局所運動もみつかり,このような再現性のある運動をする部位は機能発現にとって重要である可能性が高いと考えられる.そこで、今年度は,さらなる解析によってタンパク質揺らぎの複雑多様な実態を解明することを目指した. まず前年度に引き続き,LAOの遅い運動の鍵となっていそうなアミノ酸残基K186をアラニンに置換した変異体K186Aについてさらなる解析を行った.5回のシミュレーションを行ったところ,いずれにおいても野生型とは異なったドメイン運動が見られ,リガンドの結合には不利な状況となった.実際,野生型のシミュレーションも5回やってみたところ,5回のうち4回まではドメイン運動をしつつもリガンドが結合できるような構造であった.ただし,残りの1回だけは,K186がD238とつくっていた塩橋が壊れ,クローズ型へと変化しており,野生型であっても鍵となる相互作用がなくなれば,構造変化が起きることがわかった. 続いて,LAOで生じている遅い運動を別角度から検証すべく,これまで用いていたCα原子のデカルト座標とは異なる主鎖二面角の時系列データにtICAを適用した.その結果,抽出された運動はCα原子のデカルト座標に対するtICAの結果とよく一致しており,tICAは座標系に依らず遅い運動を抽出できることがわかった. さらに,LAOとは別のタンパク質でtICAによる解析が有効であるか確かめるため,マルトース結合タンパク質を対象としてシミュレーションを実行したところ,tICAの有効性について一定の成果は確認できた.
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