研究課題/領域番号 |
23770188
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
茶谷 絵理 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00432493)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | タンパク質 / フォールディング / アミロイド / 中間体 / 伝播 |
研究概要 |
アミロイド線維はタンパク質のミスフォールディングによって形成される立体構造であり、数々の深刻な疾病に関わることから強い関心が寄せられている。なかでも「核依存性伸長」という自らの末端構造を鋳型として順次モノマーが結合し成長しながら構造を伝播させる性質は、アミロイドーシスの感染および伝播を引き起こす分子基盤であると考えられる。しかしながら、アミロイド構造がどのように自己の構造を複製してゆくかの機構は明らかにされていない。我々は、これまでの研究結果を踏まえ、アミロイド線維の構造伝播には特定のアミノ酸配列領域が強く関与するのではないかという仮説を立てており、同配列領域を実証することを研究目標としている。 本課題では、伝播性が発現する以前のアミロイド線維前駆中間体に着目し、成熟アミロイド線維と構造比較することによって伝播性が発現するために必要なクロスβ構造の領域を特定する試みを行った。オリゴマーやプロトフィブリルのような線維前駆体の蓄積は通常非常に少ないが、インスリンについて条件探索を行ったところ、溶媒条件を調節することにより中間体を高効率かつ安定に捕捉できることが明らかになった。FT-IRやプロテアーゼ消化を用いて捕捉した前駆中間体のクロスβ構造形成量および領域を検討したところ、中間体ではクロスβ構造を一部のみ形成していることが判明した。今後成熟したアミロイド線維との比較により、伝播に重要な役割を果たすクロスβ構造領域を特定する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリンアミロイド線維の線維前駆中間体の捕捉と構造解析により、本課題の第一目標である感染、伝播に重要な役割を果たす短いアミノ酸配列の存在が示されつつある。今後、異なる解析手段やタンパク質を用いてより多面的に解析していくことが必要であるが、当該配列領域の概念を提案し研究を進展させるための糸口は、今年度の研究で確実に得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の第一課題であった線維前駆中間体の捕捉と観察は、先述のとおり順調に進行しているので、今後は、重水素交換-NMRなどを用いてより詳細に中間体構造を解析するとともに、グリシンスキャニングというアミノ酸変異導入を用いた新たな方法の開発にも着手し、伝播に重要な領域をより詳細に絞り込みたいと考えている。そのためには、変異体を作製するための大腸菌を用いた大量発現系の構築と精製系の確立が必要であるが、初期検討を既に開始しているのでできるだけ速やかに完成させる予定である。また、線維前駆中間体が成熟したアミロイド線維へと構造変化する過程も解明すべき重要な点であるため、小角X線溶液散乱を用いたサイズの時分割解析も検討している。これらの研究成果を総合して、感染・伝播機構をアミノ酸残基レベルで解明したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度に引き続き、本課題で使用する研究費の主な用途は物品の購入費となる。今後の実験には、変異体タンパク質の調製が頻繁に必要になるため、タンパク質発現系の構築、培養・精製に関わる器具や試薬類の購入を中心に行う。また、X線散乱、マス、AFMなども使用するため、これらの装置の使用料も予算に含めている。さらに、アミロイド研究関連の情報収集のための出張を必要時に行う。研究状況を国内学会で報告するための出張も計画している。
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