イオンチャネルは生体膜に存在し、細胞内外の環境変化を感知してイオン環境を調節することにより細胞の生理機能を制御する重要なタンパク質である。イオンチャネルの分子実体を理解するには、機能しているイオンチャネルの構造変化を機能変化とともに1分子レベルで同時計測し、その構造機能相関を明らかにすることが必要である。そのため、本研究では、以前我々が開発した同時計測装置を改良して、主にKcsAチャネルの機能変化(活性変化)に伴う構造変化を1分子レベルで同時に捉え、チャネルの開閉機構を明らかにすることを目的とした。そのため、以下の2つを実施した。 1.KcsAチャネルの1分子レベルでの構造変化の可視化 以前、多分子系でKcsAチャネルの開閉を疎水度によって蛍光強度が変化する蛍光色素(テトラメチルローダミン、TMR)を用いて捉えることに成功したが、今回1分子レベルでも、固体支持膜に再構成したTMR標識KcsAの開閉を蛍光のオン・オフとして明確に捉えることができた。その結果、KcsAは、活性化条件下では安定した構造状態をとる一方、不活性化条件下では頻繁に構造状態が変化していることが示唆された。 2.同時計測系の開発・改良 ガラス針の先端にカリウムチャネルをヒスチジンタグやアビジン―ビオチン系を介して固定し、直接膜に押し込むという新しい方法を、同時計測装置に組み込んだ。その結果、ガラス針を膜に押し付けて数秒から数分以内にチャネル電流が見られ、チャネルの膜への組み込み効率が上がった。さらに、チャネルが固定されたことにより、正確な蛍光計測を困難にしていたチャネルの膜中での拡散の問題が解消された。この方法により、初めて安定にイオンチャネル1分子の蛍光像を得ることに成功した。 現在、上記の2つの結果を踏まえ、1分子レベルでイオンチャネルの開閉に伴う機能と構造変化の同時計測を推進中である。
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