研究課題/領域番号 |
23770192
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森 貴治 独立行政法人理化学研究所, 分子機能シミュレーション研究チーム, 特別研究員 (90402445)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
膜タンパク質-脂質二重膜複合体構造の新しいモデリング法の開発を目指し、本年度は脂質表面積解析法の開発を行った。脂質二重膜の構造パラメーターの一つとして、脂質1分子あたりの表面積があるが、これは実験からも測定できる物理量であるため、シミュレーションによる脂質二重膜のモデリング構造が確からしいかどうかを判断する基準としてよく用いられる。単純脂質二重膜の場合は容易に脂質表面積を解析できるが、膜タンパク質系の場合はタンパク質近傍構造の複雑さ故、従来解析が困難であった。このような問題を解決するために、本研究では膜タンパク質系において脂質1分子あたりの表面積を解析する方法を開発した。本手法はボロノイ分割法とモンテカルロ積分法を組み合わせた方法で、脂質1分子の座標をその質量中心で近似し、それを母点としてボロノイ分割を行い、膜タンパク質近傍の脂質分子に対してはさらにモンテカルロ積分を行うことで表面積を数値的に計算する。本手法を分子動力学計算から得られたカルシウムイオンポンプ-DOPC二重膜およびタンパク質チャネルSecY-POPC二重膜系のトラジェクトリーに適用した結果、脂質表面積は十分な精度で計算できることが確認でき、また実験データとも一致する結果が得られた。本手法は脂質分子の座標近似の解像度を上げることで混合脂質二重膜系にも適用でき、脂質ラフト構造のモデリングにも極めて有用である。本研究で開発したプログラムは、研究室ホームページにおいて無償で配布している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は、脂質ラフトの構造モデリングに適用可能な新しい膜タンパク質-脂質二重膜複合体構造のモデリング法を開発することである。我々のストラテジーは、異なる解像度の分子モデル「陰的溶媒モデル」「粗視化モデル」「全原子モデル」を階層的につなぐことである。2011年度は3つの階層のうち、全原子モデルに注目してモデリング法の開発を進めてきた。また、陰的溶媒モデルを用いた膜タンパク質の配向予測法の開発とモデリングへの応用についてもすでに進めており、現段階で予測された膜タンパク質の配向は、全原子モデルを用いた長時間の分子動力学計算結果とも一致する結果を得ている。2年計画のうちの1年目で半分の行程まで進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
陰的溶媒モデルを用いたモデリング法の開発については、引き続きミシガン州立大のMichael Feig氏と連携をとる。開発した方法を用いて種々の膜タンパク質について配向を予測し、OPMやPDBTMなどの膜タンパク質の配向データベースとの比較を行う。また、方法のアプリケーションとして、カルシウムイオンポンプを対象として、複合体構造のモデリングと全原子シミュレーションも行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
未使用額が101,919円生じたが、これは研究計画の中で共同研究先のMichael Feig氏のグループのソフトウェア開発に遅れが生じ、予定していた学会(分子シミュレーション討論会)の発表に間に合わなかったことが主な理由である。本年度は、当該研究費と平成24年度の研究費をあわせて、国内学会、海外学会の参加費および旅費に使用する。また、シミュレーションで得られたデータを保存するためのハードディスクを購入する。
|