本年度は主に2つの構造モデリング法の開発に成功した。 (1)混合脂質二重膜系のモデリングおよびシミュレーションを行う場合、系を構成する脂質分子はとり得る状態・配置が非常に多いため、従来の手法では構造サンプリングが不足するという問題があった。そこで本研究では、混合脂質二重膜系の効率の良い構造サンプリングを実現する方法として、表面張力レプリカ交換法を開発した。本手法は、系のレプリカを複数用意し、各レプリカにおいて温度・圧力・表面張力一定の分子動力学計算を行い、あるステップ毎に表面張力をメトロポリス判定に従ってレプリカ間で交換する。本手法をDPPC脂質二重膜系に適用したところ、従来の手法と比べて脂質二重膜が急激に変形し、かつ脂質分子の側方拡散が誘起されることが分かった。本手法により、混合脂質膜や脂質ラフトのようなより複雑な生体膜系の効率良い構造モデリングが可能である。 (2)膜タンパク質-脂質二重膜複合体をモデリングする上で、膜タンパク質の膜に対する位置・配向を知ることが第一に必要となる。本研究では、膜タンパク質の配向予測法として、連続誘電体モデルとエネルギー極小化計算を組み合わせた手法を開発した。本手法では、連続誘電体モデル(GBMVモデル)を用いて膜タンパク質の溶媒和自由エネルギーを計算し、自由エネルギーが極小となる位置・配向をランダムに探索して最適な構造を割り出す。手法の妥当性を検証するために12種類の膜タンパク質(ヘリックスバンドル系およびβバレル系)の自由エネルギー地形および配向を予測した。その結果、いずれの膜タンパク質においても疎水性アミノ酸が膜中の疎水コア領域に覆われた配向が得られ、予測構造はOPMデータベースの結果とも一致した。本手法により様々な膜タンパク質系の位置・配向の理論予測が可能である。
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