遺伝子機能を正確に制御するために翻訳は最も重要な役割を持つが、技術の欠如からその解析は非常に困難な状況である。我々は、翻訳機構を核内の転写から再現し、なおかつリアルタイムで翻訳の活性化を可視化する画期的な技術を独自に確立してきた。ゼブラフィッシュ卵母細胞において、サイクリンB1 mRNAは翻訳抑制を受け動物極の細胞質に局在する。卵母細胞が受精可能な成熟卵となるには、この動物極に局在するサイクリンB1 mRNAが時期・部位特異的に翻訳されることが重要である。我々は独自に確立した解析法を用い、サイクリンB1 mRNAにおける非翻訳領域のみでなく、コード領域がその翻訳機構に重要であることを見いだした。さらに本研究において我々は、コード領域に存在する9塩基のシス配列を同定した。同定した9塩基は、ゼブラフィッシュからヒトにいたるすべてのサイクリンB1遺伝子に完全に保存されている。この9塩基において、コードするアミノ酸配列を変えずに3塩基を置換したレポーターmRNAは、動物極へ局在せず翻訳時期が早まった。さらに、この9塩基をGFP遺伝子のコード領域に挿入した結果、mRNAが動物極に局在した。9塩基のシス因子を含むゼブラフィッシュ、ツメガエル、マウスのRNAプローブは、ゼブラフィッシュ卵母細胞の抽出液において蛋白質と相互作用し、複合体を形成した。反対に、9塩基のうち3塩基を置換したRNAプローブは複合体を形成しなかった。これらの結果から、翻訳抑制を受けたサイクリンB1 mRNAはコード領域の9塩基を介して蛋白質と結合し、動物極に局在すること、この局在が翻訳時期の制御に重要であることが示唆された。この結果は、mRNAの局在化と翻訳時期の制御が一つのシス因子によってリンクすることを初めて示したものであり、翻訳による遺伝子機能制御の解明に向けて非常に重要な知見をもたらしたと言える。
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