異常mRNAにより生じた異常タンパク質は、正常なタンパク質の発現量や活性の低下を介して、様々な悪影響を細胞にもたらす可能性がある。そのため細胞は、遺伝子発現の正確性を厳密に保証する品質管理機構を保持している。これまで我々は、1)終止コドンを欠失したmRNA(ノンストップmRNA)と、2)ナンセンス変異を保持するmRNAの解析を通じて、mRNA分解に加え、翻訳アレストと異常タンパク質の分解促進が、異常mRNAの発現抑制機構に重要な役割を果たすことを明らかにした。本研究は、2つの異常mRNAで起こる異常翻訳の識別機構と、異常タンパク質の分解促進機構について、詳細な分子機構を明らかにすることを目的として解析を行った。 最終年度は、ナンセンス変異を保持するmRNAから合成された短鎖型異常タンパク質(PTC産物)の分解促進機構に焦点を絞り解析を進めた。PTC産物は効率的なユビキチン化を受けるものの、Upf因子はユビキチン化産物の分解を促進しなかった。Upf因子が異常タンパク質との相互作用を介してその分解を促進する可能性を検証するため、Upf因子と異常タンパク質の結合を免疫沈降法を用いて検証した。その結果、Upf因子と異常タンパク質の共沈効率が、タンパク質の分解効率と非常に相関性が高いことを明らかにした。また、フォールディング異常を示すヒトVHLタンパク質の分解もUpf因子と長い3'UTRに依存して促進され、その分解効率がUpf因子との共沈降効率と比例することを明らかにした。これらの結果は、Upf因子が異常タンパク質のフォールディング異常を認識し、ユビキチン化非依存的にプロテアソームによる分解を促進していることを示唆している(論文投稿中)。
|