研究課題
K63型ポリユビキチン化は、ユビキチン化標的因子の活性を修飾することにより、様々な細胞内シグナル伝達の制御に関与する。近年、特に細菌及びウイルス感染に対する自然免疫応答、一部の発癌過程において、K63型ポリユビキチン化の重要性が示唆されているが、標的因子やその制御機構については不明な部分が多い。昨年度、研究代表者は、K63型ポリユビキチン鎖(K63鎖)に特異的に結合するTAB2由来K63鎖結合ドメイン(NZF)にGST-tagを融合させたアフィニティーカラムを作製し、細胞抽出液よりK63ポリユビキチン化因子を高濃度に濃縮することに成功した。本年度は、さらに精製の純度の向上、生成量の増大を目的とし、NZFペプチド結合アフィニティーカラムを用いたK63鎖因子精製用HPLCシステムを構築した。このシステムにより、より特異的かつ大量にK63ポリユビキチン化因子の精製が可能となり、これまで困難であった特定のポリユビキチン化タンパク質を精製する方法を初めて確立した。当システムは、ポリユビキチン鎖の結合ペプチドを替えることで、K63鎖以外の特定のポリユビキチン鎖の精製にも応用が可能であることから、ユビキチン化研究の進展に非常に有用なツールと考えられる。また、昨年度、成人T細胞白血病(ATL)ウイルスHTLV-1由来Taxタンパク質がK63型ポリユビキチン化を誘導すること、それがTaxによる転写因子NF-κB活性化に必要なことを見出したが、本年度は、Taxによって誘導されるK63鎖ユビキチン化因子の候補として、IKKα、IKKβを見出した。現在、NF-κB活性化におけるこれら因子のポリユビキチン化の役割について解析を進めている。これらのことは、ATL発症過程でのNF-κB恒常的活性化のメカニズムに対して新たな知見を与え、ATL治療法の開発における新規標的分子の発見に寄与すると考えられる。
3: やや遅れている
本研究では、細胞内におけるK63型ポリユビキチン化因子を大量かつ高純度に精製し、網羅的に解析することにより、自然免疫応答や発癌過程におけるK63型ポリユビキチン化の役割、それによる細胞内シグナル伝達制御機構の解明を目指している。したがって、本研究において、細胞抽出液からK63型ポリユビキチン化タンパク質を特異的かつ高濃度に濃縮する技術の確立が必須であり、最大の目標である。昨年度は、GST-tagを用いたK63鎖タンパク質のアフィニティー精製法の確立を目指し、アフィニティーカラムの作製、細胞抽出液の調製方法、精製・濃縮における塩濃度、pHなどの条件設定を行った。本年度は、昨年度に確立した手法を用い、細胞抽出液からK63型ポリユビキチン化因子を大量に精製し、プロテオーム解析による網羅的解析を試みたが、大量精製の際、予想以上にK63鎖以外のポリユビキチン化タンパク質や他のタンパク質の混入が多く解析が困難であったため、さらに精製・濃縮方法の改良が必要になった。そこで、GST-tagを用いず、K63鎖結合ペプチドを直接カラムに結合させたアフィニティーカラムを新たに作製し、さらにHPLCを用いて、より高純度・高濃縮度でK63化タンパク質を精製するシステムを構築した。このシステムの開発には成功し、その成果を学術論文(PEPTIDE SCIENCE, 2012)として発表したが、システム構築に時間を要したため、本年度完了予定であったK63鎖ポリユビキチン化因子の網羅的解析が遅れることとなった。しかし、すでに現在プロテオーム解析を進めており、次年度には完全に終了する予定である。さらに、本年度はHTLV-1由来TaxによってIKKα、IKKβのK63型ユビキチン化が誘導されることを見出し、新たな研究展開が望まれる発見があった。以上のことから、本年度の研究達成度として、やや遅れていると判断した。
現在、K63型ポリユビキチン化連結酵素TRAF6を過剰発現させたHEK293細胞、マクロファージ系細胞Raw274細胞の細胞抽出液から、HPLCシステムを用いて、K63型ポリユビキチン化タンパク質を大量に精製し、液体クロマトグラフィー/質量分析法を用いたプロテオーム解析により、K63型ポリユビキチン化因子の網羅的同定を行っている。今後、同定されたK63型ポリユビキチン化因子が関与する細胞内代謝経路、シグナル伝達機構の発見を明らかにする。特に、感染に対する自然免疫応答におけるK63型ポリユビキチン化の役割を明らかにするため、自然免疫応答に重要なK63型ポリユビキチン化連結酵素TRAF6と同定されたK63型ポリユビキチン化因子との関連性、シグナル因子複合体形成の関与、それらシグナル伝達因子の活性制御機構、下流のシグナル伝達因子の活性化に対する影響などを明らかにする。さらに、TRAF6のポリユビキチン化活性に必要なユビキチン化結合酵素 (E2)の同定を試み、前述の知見と合わせて、TRAF6を介したK63型ポリユビキチン化の制御機構を解析し、自然免疫応答におけるK63型ポリユビキチン化の全体像を明らかにする。また、Tax依存的に誘導されるK63ポリユビキチン化タンパク質の網羅的解析を進めるともに、本年度に同定されたIKKα, IKKβのTax依存的K63型ポリユビキチン化の生理学的役割について、特にTax依存的NF-κB活性化の関与を中心に解明を試みる。
本年度遂行予定であったK63型ポリユビキチン化の網羅的解析を進めているとき、GST-tagを用いたアフィニティーカラムでは、プロテオーム解析に適した高純度のK63型ポリユビキチン化タンパク質には不適であることが判明した。そこで、さらなる精製システムの開発に着手し、GST-tagを用いないアフィニティーカラムの精製、および大量精製に適したHPLCシステムを確立した。このシステムの開発には、すでに保有している多くの試薬、備品が使用可能であった。また、本年度に完了予定であったプロテオーム解析、同定された因子の機能解析を行うことができなかったため、それに必要な消耗品、試薬類の購入費、成果発表に必要な旅費や論文投稿に関する費用などを次年度で使用せざるを得なくなった。そのため、次年度に使用する研究費が生じる結果となった。したがって、次年度に使用する本研究費合計180万円を、次のような内訳で使用する計画である。本年度に完了することができなかったプロテオーム解析などの研究遂行に必要な試薬、実験器具などの消耗品の購入費用、プロテオーム解析の受託解析費用などとして、物品費140万円を使用する。次年度において、備品類を購入する計画はない。さらに、本研究が終了したのちの学術学会での成果発表に必要な費用として旅費20万円、また学術論文の投稿に関する投稿料、英文校閲費用として20万円を使用する予定である
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PEPTIDE SCIENCE
巻: なし ページ: 161-164
Nature Communication
巻: 3:1061 ページ: 1-13
10.1038/ncomms2068
Nature
巻: 483 ページ: 623-626
10.1038/nature10894