研究課題/領域番号 |
23770209
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
田中 祐司 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助教 (90453422)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / クロマチン / ヒストン脱メチル化 / リボソーム / rRNA転写調節 / jmjC / KDM2A |
研究概要 |
当該年度はどの培養成分がKDM2A の脱メチル化能を調節するのかを主に解析した。KDM2A のヒストン脱メチル化活性を抑制する候補成分(ヒポキサンチン、チミジン、インスリン、トランスフェリン、グルコース)のうち、KDM2A のヒストン脱メチル化活性を抑制する因子を同定するため、候補成分処理を行った細胞で飢餓時のrRNA 転写の変化とrDNAプロモーターのヒストンH3K36me1/2 脱メチル化を解析した。その結果、候補成分のうちインスリンとグルコース処理がrRNA転写抑制、及びヒストンH3K36me1/2 脱メチル化を抑制した。一方、KDM2Aノックダウン細胞ではインスリンとグルコース処理時の反応が減弱した。よって、培地からインスリンやグルコースが欠如することでKDM2Aが活性化しrRNA転写抑制が生じると考えられた。また、ChIP-reChIP法による解析からKDM2Aの脱メチル化活性の変化はrDNAプロモーターに結合しているKDM2Aに生じることが示唆されたので、インスリンやグルコース欠如に由来する飢餓シグナルがrDNAプロモーター上に存在しているKDM2Aまで伝達されていると推測された。さらにKDM2AによるrRNA転写抑制の分子機構を解析するため、KDM2Aの機能ドメイン変異体の解析を行った。その結果、KDM2Aに存在する機能ドメインの一つ、CXXCドメインには非メチル化CpG配列への親和性があり、rDNAプロモーターにリクルートするのに必要であることが分かった。そして、CXXCドメインの機能欠損変異体はrDNAプロモーターにリクルートできないだけでなく、飢餓時のKDM2A依存的なrRNA転写抑制を起こせなかった。以上の結果からKDM2Aがインスリン・グルコース飢餓時に活性化する事。CXXCドメインによるDNA結合性がrRNA転写抑制に必要なことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画と実施概要を照らし合わせるとおおむね予定通り進行したと言える。平成23年度分実施計画は血清・グルコース中からKDM2Aの活性抑制成分を同定する事であった。種々の解析の結果、KDM2Aの活性抑制成分としてインスリンとグルコースを同定した。計画ではこの後シグナル経路の同定も行う予定だったが、同時進行で行っていたKDM2Aの機能ドメインの解析結果(本来の計画では平成24年度以降に行う予定だった。)が良好であったためこちらの解析を先に進めた。その結果、CXXCドメインが非メチルCpG配列に結合する機能を有しており、rDNAクロマチンへのリクルートに必要である事。そして、血清・グルコース飢餓時のKDM2A依存的なrRNA転写抑制、及びヒストン脱メチル化に必要である事を明らかとした。この結果は研究全体の目的であるヒストン脱メチル化酵素KDM2Aによる飢餓応答の分子機構の一端を明らかにしたものであり、KDM2Aによるヒストン脱メチル化はDNAのメチル化状態に依存して発揮される事を示唆するものである。次年度にこれらの結果をまとめ、国際学術誌に投稿する予定であること、そして研究全体の計画、目的と照らし合わせてみても順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に計画通り行うが、結果の良し悪しによって柔軟に変更する。次年度は、主に飢餓状態の細胞でKDM2A によるヒストンH3K36me1/2の脱メチル化が生じた後、どの様な分子機構でrRNA 転写抑制が起こるのかを明らかにする解析を行う。まず、KDM2AによるrRNA転写抑制に必要な領域をrDNA領域から決定する。次に制御領域に結合する転写因子を同定する。さらに、同定した因子がKDM2Aによるヒストン脱メチル化によって制御領域への結合量が調節されるかを検討する。本解析で明らかにする分子メカニズムが、最終的にRNA ポリメラーゼIによる転写を抑制している事から、RNA ポリメラーゼIの結合量も検討する。以上の解析からKDM2A のヒストン脱メチル化活性によって引き起こされる転写抑制の分子メカニズムを明らかにする。次に前項で明らかにしたメカニズムと飢餓応答の関連を解析する。飢餓反応、あるいは前年度に明らかにした、インスリン、グルコースを除いた培地、あるいはインスリン、グルコースのみを加えた培地で処理した細胞中で、前年度で明らかにした分子メカニズムが引き起こされるかを主にChIP 法により解析する。その後、KDM2A中に存在する機能ドメインの解析を続ける。前年度はCXXCドメインの機能を明らかにしたが、次年度はまだ機能が明らかにされていないドメインに関する解析も行う予定である。最終的には国際学術誌に掲載されるよう計画を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の予算の使用に関しては若干の計画変更を行った。研究開始まもなく、転写量解析に必須であるサーマルサイクラーが故障し、研究の遂行が不可能に陥った為、予算の使用予定を変更してタカラバイオ(株)サーマルサイクラー[TP600]を購入した。その結果、前述の研究結果を得ることができたこともあり必要な変更であった。また、発生した繰越金は、初年度に行う予定だった研究計画の一部を変更したために発生したものであった。しかし、次年度の研究計画では解析に必要な実験材料が比較的高額であることから予算不足が懸念されるため、次年度に行う研究と合算して使用することとした。従って、前年度の繰越金は基本的に次年度の物品費に加算して使用する計画である。基本的には本学には本研究を遂行するための研究機器類はそろっているが、前年度に生じた機器故障など研究遂行が困難な状況に陥った場合は、使用計画を変更して柔軟に対応する考えである。
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