研究課題/領域番号 |
23770224
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
中村 肇伸 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 講師 (80403202)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | DNA / ヒストン / 脱メチル化 / メチル化 / 受精卵 / PGC7 |
研究概要 |
DNAの脱メチル化の機序として、DNA複製を伴う受動的脱メチル化と、DNA複製を伴わない能動的脱メチル化が知られている。植物では、DNAグリコシラーゼが能動的脱メチル化の中心的な役割を果たし、塩基除去修復と協調して脱メチル化が生じることが知られている。しかし、哺乳類では、能動的脱メチル化の分子機構を発見したという論文が散見されるものの、いずれもが決定力に欠き、能動的脱メチル化を担う分子機構は不明のまま残されている。 申請者は、これまでにPGC7という初期胚、始原生殖細胞、卵細胞において特異的に発現するタンパク質が、受精卵において雌性ゲノムを能動的DNA脱メチル化から保護することを明らかにしてきた。また、PGC7による脱メチル化の保護には、PGC7とヒストンH3の9番目のリジンのジメチル化(H3K9me2)の結合が重要であることも見出している。 これまでの研究から、能動的DNA脱メチル化の分子機構には、DNA修復機構の関与が示唆されている。そこで、本研究ではDNAメチル化が存在しないDNA methyltransferase triple knockout(Dnmts TKO)ES細胞およびH3K9me2がほとんど存在しないG9a KO ES細胞にPGC7を過剰発現させ、DNAのアルキル化剤を用いてDNA損傷を誘導した。その結果、PGC7は野生型ES細胞およびDnmts TKO ES細胞においてDNA損傷の修復を阻害するが、G9a KO ES細胞では、DNA修復を阻害しないことが明らかとなった。PGC7によるDNA修復経路の阻害がH3K9me2を必要とすることから、受精卵における能動的DNA脱メチル化の阻害と同じ分子機構であることが示唆された。今後、受精卵では困難であった分子生物学的および生化学的な解析を行い、初期胚におけるDNA脱メチル化の分子機構を解明することを試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、23年度の交付申請書の研究計画に記載したすべての実験を実行することができた。また、ES細胞を用いて、PGC7が能動的DNA脱メチル化への関与が示唆されるDNA修復を阻害すること、またこの阻害にはH3K9me2が必要なこと、を見出した。これらの研究成果は、能動的DNA脱メチル化の分子機構の解析にES細胞を使用できることを示唆するものである。実験材料にES細胞を使えることの意義は大きく、受精卵では困難であった分子生物学的および生化学的な解析が可能となり、DNAメチル化制御の研究に新たな展開をもたらすことが期待できる。これらのことから、本研究は、「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らは、DNA修復経路の中で、塩基除去修復(BER: Base Excision Repair)の経路に特異的なAPE1(apurinic endonuclease 1)の阻害剤(CRT0044876)により、受精卵の雄性ゲノムの能動的DNA脱メチル化が部分的に阻害されるという予備的な結果を得ている。そこで、APE1以外でBERの修復経路に特異的なPARP(poly(ADP-ribose) polymerase)の阻害剤 3AB(3-aminobenzamide)またはヌクレオチド除去修復(NER: Nucleotide excision repair)の経路に特異的なXPAの阻害剤(UCN-01)の存在下で体外受精を行い、前核形成後に抗メチル化シトシン抗体を用いた免疫染色をおこなう。卵細胞では二本鎖RNAやモルフォリーノオリゴヌクレオチドをマイクロインジェクションすることにより、効率よく遺伝子ノックダウンできることが知られているため、受精前の卵細胞においてBERやNERに関与する分子をノックダウンした後に体外受精を行い、前核形成後に抗メチル化シトシン抗体を用いた免疫染色をおこなうことにより、BERおよびNERのDNA脱メチル化における関与を明らかにする。さらに、DNA脱アミノ化が受精卵の雄性ゲノムの能動的DNA脱メチル化に関与するかどうかを、AIDノックアウトマウスを用いて解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、40万円近くを次年度において使用することにしたが、これは、申請者が2011年4月より実験場所を変更したことにより、実験に若干の遅延が生じたことが原因である。現在では、長浜バイオ大学、ならびに、同付属実験施設、に実験に使用する培養装置、遺伝子導入装置、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡、実体顕微鏡、マウス飼育装置などの研究設備が整っており、今年度は滞りなく研究を進めることが可能であると考えられる。本研究は、研究内容にあるように、細胞培養とその生化学的・分子生物学的解析、およびマウスを用いた解析が中心となる。したがって、繰り越し分は、そのための実験用試薬、培養器具、培養関連試薬、マウスの購入・飼育費に使用する予定である。
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