研究課題/領域番号 |
23770229
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中嶋 昭雄 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環バイオシグナル研究センター, 助教 (70397818)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / TOR / 栄養 / 細胞制御 |
研究概要 |
本年度は以下の2点を中心に分裂酵母TORC1による細胞制御の分子メカニズムの検討を行った。1)TORC1によってリン酸化を受けるタンパク質キナーゼの探索と機能解析。哺乳類TORキナーゼはS6K1など、他のタンパク質キナーゼをリン酸化し、活性を制御する。研究代表者はデータベースを活用してヒトS6K1の分裂酵母ホモログとしてPsk1、Sck1、Sck2を見出し、これらが窒素源依存的なリン酸化の制御を受けること、その制御の一部はTORC1がそれらを基質として直接行っていることを明らかにした。さらにPsk1について詳細に解析を行い、Psk1がリボソームタンパクS6を基質とし、栄養依存的なリン酸化を調節すること、Psk1には構造的に特徴的のあるモチーフが保存されており、それらのリン酸化が活性化に重要であることを見出した。本研究により分裂酵母のTORC1-S6K-S6カスケードを明らかにすると同時にTORC1の活性変化をそれら下流分子のリン酸化を調べることでモニタできるようになり、様々な生理状態でのTORC1の活性変動やTORC1の上流分子を明らかにする上でよい指標となりうる。実際にTORC1がグルコースやアミノ酸の一つグルタミンによって活性化されることを見出している。本成果は国際英文雑誌に投稿中である。2)アミノ酸の細胞内取り込みに関わる分子の同定研究代表者は毒性アルギニンアナログのカナバニンに対する耐性取得を指標にアミノ酸取り込みに関わる分子のスクリーニングを行い、アレスチン様のタンパク質を同定した。このタンパク質はユビキチンリガーゼPub1と結合して協調的にアミノ酸トランスポーターのエンドサイトーシスを調節することを明らかにした。取り込まれたアミノ酸はTORC1を活性化する栄養分子となりえ、取り込みメカニズムはTORC1のフィードバックシグナルの一端と担う可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は本年度までに分裂酵母TORC1により窒素源依存的に制御を受ける3つのタンパク質キナーゼを同定し、その詳細な調節機構について明らかにした。この成果によりこれらTORC1が制御する分子のリン酸化をモニタすることで、TORC1の活性の変動を簡便に調べることができるようになった。この方法を用いて、これまで不明であった分裂酵母の様々な生理状態におけるTORC1の活性およびその変動について解析を行い、その生理的機能について検討を行っている。また、TORC1の上流分子、すなわち、TORC1をコントロールする可能性のある候補分子について合わせて検討を始めている。 また、TORC1シグナルの関与が知られている細胞内へのアミノ酸の取り込みについて、その制御に関わる分子のスクリーニングを行い、いくつかの候補遺伝子を得た。そのうちアレスチン様のタンパク質の機能や制御メカニズムについて解析を行い、それらの詳細が明らかになりつつある。今後は他の候補分子についても順次解析を行い、TORC1シグナルとの関係も明らかにしていく。 栄養-TORC1シグナルを介したリン酸化の制御を受ける分子の網羅的な探索に関しては、リン酸化タンパク濃縮カラムおよびリン酸部位特異的抗体を用いた精製方法などの至適条件の検討を行っている。この解析については質量分析法によるリン酸化タンパク質の解析に至っておらず、次年度において集中的に進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はTORC1が制御する分子のリン酸化を指標にTORC1活性をモニタすることで、これまで不明な点が多かった様々な生理状態における、特に細胞増殖時の各細胞周期、減数分裂時、様々なストレスの影響、さらに飢餓時に誘導されるオートファジーによる栄養のリサイクルの影響など、分裂酵母TORC1の活性およびその変動について解析を行い、それぞれの生理状態におけるTORC1の役割について検討を進める。また、他の生物種ではTORC1を制御する分子がいくつか知られているが、それらの分裂酵母ホモログについてTORC1の上流分子としての可能性をTORC1の基質のリン酸化をもとに検討し、上流因子として認められた場合、それらの機能解析および結合タンパク質によるそれらの関連因子の探索を行う。 また、これまで見出した基質以外のTORC1シグナルのエフェター分子の探索では、TORC1依存的なリン酸化タンパク質の精製方法を確立し、質量分析法による解析を行う。 さらにアミノ酸の取り込みに関わるメカニズムの解明ではアレスチン様タンパクについてより詳細な解析を進めるとともに、スクリーニングで得られた別の分子についても解析を行う。また、研究代表者はアレスチン様タンパクの標的であるアミノ酸トランスポーターが窒素源依存的な制御を受けていることを明らかにしている。その制御とTORC1との関連を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は他の研究予算からの措置および購入機器の機種変更による購入価格の変更や質量分析によるタンパク質解析の外部委託費が委託先の変更により、当初の予定より小額で済んだことにより、次年度への繰越金が生じた。次年度においては分裂酵母を様々な温度で培養するためのインキューベータ-シェカーの購入やタンパク質解析の外部委託の回数の増加が見込まれるため、繰越金を当てる予定である。さらに当初の使用計画通り、試薬および消耗品の購入、さらに所属大学にある共通利用機器の利用費、学会等における研究成果発表のための旅費、学術雑誌への論文の投稿費および掲載費などへの使用を予定している。
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