研究課題/領域番号 |
23770234
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉田 昌樹 筑波大学, 生命環境系, 助教 (10449308)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | プロテオーム / ゲノム情報 / ソフトウェア開発 |
研究概要 |
申請者は22年度12月より筑波大学に助教として着任し、立教大学から当該機関に籍を移して研究を行った。22年度より本研究計画の準備を行い、一部研究に着手していたが、筑波大学は23年3月の東日本大震災により被災し、研究計画にも相当の遅れが生じた。震災により培養室が壊滅し、培養株(Cyanidioschyzon merolae 10D)を逸失したため、立教大学極限生命情報研究センターの黒岩教授より同株の分譲を受け、研究を再開した。また申請者の異動に伴い、本計画で用いる質量分析装置をAXIMA-TOF2(島津製作所)からAgilent 6500 Q-TOF LC/MSへと変更した。この変更により得られるデータの精度が向上すると期待されたが、当該機器も震災により設置台から落下し破損したため、23年10月まで使用不能となった。これらの理由により23年度の研究は、震災からの復旧と培養系の再確立、およびソフトウェア関連の内容が主となった。既に特許を出願(特願2010-196367)していた本ソフトウェアであるが、立教大学の学内審査通過に伴い新たに発明内容を見直し、PCTによる国際出願を行った(PCT/JP2011/069885)。なお、本研究計画の基盤となる論文Yoshida et al. 2011(doi: 10.1111/j.1440-1835.2010.00589.x)が、2011年度の第15回日本藻類学会論文賞を受賞した。これにより、本研究の意義が一層広く認識されるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞の同調培養:Cyanidioschyzon merolae 10Dの培養株は震災により一度失われたが、前述のとおり立教大学より分譲を受け、再生した。培養株は従来通り、照明の明暗周期と通気培養により同調が可能であった。同調の確認は顕微鏡レベルに留まっているが、以降の作業を進めるのに問題のないレベルで達成されていると考えられる。同調培養に必要な装置として、本経費により温浴用の水槽や高温培養器を購入した。LC-MALDIによる分画および条件検討:培養の遅れと震災による機器の破損のため、23年度はLC/MSを用いる段階まで作業を進めることができなかった。従って23年度計画は24年度上半期を目処に実行する。装置変更に伴い、技術支援の依頼先は島津製作所からアジレント社へ変更する。試験的にサンプルを調製して分析を行ったところ、得られるデータの精度が格段に向上することが確認できたため、分析作業自体は計画よりも速やかに運ぶことが期待される。ソフトウェアの改良:質量分析装置の変更により、23年度はデータ読み込み部分の改良が主となった。前述のとおり、本ソフトウェアはPCTによる国際出願とそれに伴う(発明としての)評価を受ける機会を得たため、国際調査報告や見解書の内容を受けて請求項の見直しを行い、より競争力のある出願内容とした。
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今後の研究の推進方策 |
震災で申請者の所属機関・研究室が甚大な被害を被ったことにより、23年度は研究計画を達成できなかった。次年度以降は進捗の遅れを取り戻すべく、効率的に研究を進めてゆく。既に同調培養系は確立されたため、細胞の収穫・分画以降の作業を進める。所属機関の変更に伴い、研究の要である質量分析装置が計画と異なるものとなり、新たに操作に習熟する必要が生じた。この点については、質量分析装置の管理・操作を担当している研究員に協力を要請し、23年度より機器の操作を習得中である。また当研究室ではアジレント社と契約し、定期的な機器の点検や技術指導を依頼している。実験中に生じた疑問点などについては、これらの機会を活用して速やかな解決を図る。さらに質量分析装置の機種変更に伴い、出力されるデータ形式も変化したため、データ処理ソフトウェアの改良も必要となった。これについては、新たに64bitの開発環境により、大容量メモリへの対応と合わせて仕様の変更と実装を進めてゆく。また特許のPCT出願の過程で明らかになったソフトウェアの進歩性や競合する技術について、国際調査報告や見解書の内容を踏まえながら検討し、ソフトウェアに反映させてゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
震災により被災した研究機器はおおよそ復旧したため、当初の研究計画通り研究室において分析を進めることが再び可能となった。従って、震災の影響による当該機器の修繕費、あるいは分析の外注による経費等は発生しない見通しである。また同様に震災の被害を受けた培養室・培養機器共に復旧し、同調培養を行える環境が整った。従って次年度は当初の使用計画に基づき、研究に必要な消耗品を中心に購入する予定である。計画の遅延に伴い、23年度の研究費には残額と繰越が発生したが、これも同様に消耗品の経費とする予定である。
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