研究課題
24年度は当初の計画通りCyanidioschyzon merolae(シゾン)における研究を進める一方、申請者が在籍する研究室のテーマであるオイル産生藻類にもプロテオミクス技術を適用し、研究のさらなる進展を図った。シゾンにおいては、キネシン様タンパク質であるTOP(Three-Organelle divisions inducing Protein)が葉緑体およびミトコンドリアの分裂装置複合体に含まれ、葉緑体・ミトコンドリア・細胞核の3つのオルガネラの分裂を制御していることを明らかにした(Yoshida Y. et al. 2013 J Cell Sci.)。また、葉緑体・ミトコンドリアに続いて第三の分裂装置をペルオキシソームから発見し、その分裂機構を解明した。これは細胞内共生に由来する細胞小器官以外では初となる分裂装置の報告であり、極めて重要な知見である。現在米国科学アカデミー紀要に論文を投稿中である(Imoto et al. PNAS #2013-03483R)。細胞小器官プロテオームの応用的展開を図るべく、海洋性のオイル産生藻類であるPhaeodactylum tricornutum(フェオダクチラム)の定常期の細胞から油滴を単離し、そのプロテオーム解析も行った。その結果、NAD依存性ヒドロゲナーゼやRab6ファミリータンパク質、LonginファミリーのSNAREタンパク質など、ステロール合成や油滴小胞形成に関与すると思われるタンパク質が同定された。本件は現在論文を作成中である。さらに、近年炭化水素生産能が注目されているAurantiochytrium(オーランチオキトリウム)においてプロテオーム解析を進めるべく、沖縄科学技術大学院大学の協力を得て、プロテオミクスの基盤となるゲノム情報の解読に着手した。
2: おおむね順調に進展している
23年度は震災被害により研究活動が遅れていたが、24年度は主要な機器が復旧し、また立教大学の協力も得、研究を円滑に進めることができた。特に、質量分析装置に関しては、Agilent 6500 Q-TOF LC/MSでカラム等を購入し分析条件の検討を行ったものの、性能を引き出すことが困難であったため、立教大学極限生命情報研究センター黒岩教授のご厚意を得、必要に応じてAXIMA-TOF2を使用してデータを採取した。また、24年度はシゾンにおける学術的価値の高い知見を得た一方、様々なオイル産生藻類へと研究範囲を広げたことで、本研究の応用分野への発展の足がかりを作ることができた。特にオーランチオキトリウムは石油代替燃料の供給源として注目されている生物であり、これに細胞周期の制御や細胞小器官の単離技術を適用することは、産業的にも意義の大きい研究になると期待される。前述の通り、論文1報が受理され、1報が雑誌社に係属中(minor revision後再提出済み)となり、24年度までの研究内容を以て成果目標とした計3報の2/3を達成する見通しとなった。しかし申請者を筆頭著者とする論文が未だ受理されていない事から、25年度はこれを急ぐ必要がある。
おおよそ24年度の研究体制を維持するが、本研究計画の最終年度でとなるため成果の取りまとめと発表を急ぐ。本研究の要となる質量分析装置については、幸い異なる2機種を利用可能な状況であるため、引き続き筑波大のものと立教大学のものとを利用してゆく。両装置は性能や特性が異なるため、分析対象に応じて使い分けることが必要であると考えられる。オイル産生藻類への展開は、当初の研究計画には無かったものの、先の震災に起因する日本のエネルギー事情に鑑みれば、歩を進めるべき課題であると考えられる。25年度はシゾンを中心としながらも、引き続きフェオダクチラムおよびオーランチオキトリウムを用いたプロテオーム解析も行う予定である。また23年度に国際出願済みの特許については、国内段階へ移行する国を吟味した上で審査請求を行い、権利化を目指す予定である。
前年度までの繰越金も含め、研究費は主にこれまで通り研究消耗品に使用する予定である。最終年度は論文の投稿など成果報告やとりまとめに係る費用が多く発生すると予想されるため、それらへの執行も予定している。またゲノム解析の進捗状況によっては、共同研究先への研究実費の負担や謝金等が発生する可能性がある。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
J Cell Sci.
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10.1242/jcs.116798
Proc. Natl. Acad. Sci.
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