研究概要 |
ケラチンは上皮特異的に発現する細胞骨格蛋白質であるにも関わらず、上皮分化における役割は不明であった。これまでに申請者らはケラチン結合蛋白質Albatrossが上皮分化すなわち細胞極性の制御に関わり、ケラチンがこれを促進することを見出してきた(J. Cell Biol., 2008)。さらにAlbatrossおよびtrichoplein (J Cell Sci., 2005) をそのアミノ酸配列からTPHD分子群(トリコヒアリン・プレクチン類似ドメイン分子群)と名付けた。この分子群の特徴はケラチン結合蛋白質であることに加え、分化状態では主に細胞間接着部位に、そして増殖中は主に中心体に局在を変えることから(J. Cell Sci., 2011)、局在および機能の両面で分化・増殖制御に関わる可能性が考えられた。本研究の目的は、このような分子群と分化・増殖制御との関わりを分子レベルで明らかにすることである。 本年度は中心体に局在するtrichopleinによる細胞周期制御の仕組みを報告した(J. Cell Biol., 2012)。中心小体でtrichopleinはAurora-Aキナーゼを活性化しており、これが一次線毛形成を抑制し、G1期からS期への円滑な細胞周期進行に寄与していた。この研究結果は、一次線毛の動態が積極的に細胞増殖と増殖休止のスイッチとなっていることを新たに示すものでもあった。またAurora-A阻害は、一次線毛を形成できないがん細胞を選択的に分裂障害に導き死滅させたことから、がんの治療標的としての可能性も再確認された。 現在までに、一次線毛形成を抑制する同様の蛋白質を複数同定した。一次線毛は細胞外シグナルを受容するアンテナでもあるため、今後これらの蛋白質による細胞周期制御への関与やその作用機序の相違点について、細胞分化も意識して検討する予定である。
|