研究課題
多細胞生物が三次元の体を構築するためには、一次軸(e.g.前―後)、二次軸(e.g.左―右)の各体軸に沿った細胞・組織・器官の正確な分化と配置が必要である。本申請研究の目的は体軸形成過程でその領域サイズが決定される神経外胚葉に着目し、一次軸および二次軸形成に関与するシグナル分子が神経外胚葉のサイズ決定に関わるメカニズムを解析することである。 本年度は神経外胚葉の胚前端部への限局が一次軸形成依存的であると思われていたが、その過程に二次軸形成因子のNodalが関与する事実を示した。モルフォリノオリゴのマイクロインジェクションによるNodalノックダウン胚では間充織胞胚期の神経外胚葉サイズが正常胚よりも縮小していた。一方、NodalのアンタゴニストであるLeftyノックダウン胚では神経外胚葉サイズが正常胚よりも拡大していた。さらにこれらの縮小および拡大がどのタイミングで生じるかを検証したところ、受精後12、15時間ではNodalノックダウン胚では正常胚と差異がなく、18時間から差が生じることが明らかになった。しかし、Leftyノックダウン胚では12時間では変化がないものの15時間で既に神経外胚葉サイズが正常胚のそれよりも拡大していることが明らかになった。これは神経外胚葉の正常なサイズ維持には受精後12時間から15時間の間に適切な量のNodalが必要であることを示している。 また、Nodal経路のどの段階で神経外胚葉サイズ決定に関与しているのかを調べるため、まずNodal受容体のAlk4/5/7およびSmad2/3を日本産のバフンウニ胚から単離し、モルフォリノオリゴをデザインした。現在ノックダウン胚作製の条件検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本申請研究は二つの体軸形成を担うシグナル経路同士がリンクしているメカニズムを示すことを目的としている。本年度はその現象のタイミングを明確に示すことに加え、Nodal経路に関与する受容体と細胞内mediatorのSmad2/3をバフンウニから単離することが具体的な目的であったため計画通り順調に進展している。
今後は二次軸形成因子のNodalが一次軸形成依存的現象と思われていた神経外胚葉の限局に関与している点をより詳細に解析する。今年度に正常な神経外胚葉サイズ維持にNodalが必要であることが示されているので、一次軸形成のどのステップでNodalが関与しているのかを他のTGF-bファミリーメンバーとの関わりを詳細に調べることで検証する。申請計画通りにBMP2/4の経路の受容体やそのアンタゴニストであるChordinを単離し、Nodalのノックダウン胚においてそれらをさらにノックダウンすることや体の一部で機能阻害を行うことでNodalを含めたTGF-bファミリーメンバーが神経外胚葉サイズ維持に関わるメカニズムを明らかにする。
実際に研究を遂行した結果、胚のハンドリングを重要視して平成23年度に購入予定であった通常の実体顕微鏡よりも実験結果を観察する蛍光実体顕微鏡または蛍光顕微鏡が必要であることが判明した。具体的な計画のうち、次年度には各遺伝子のノックダウン胚における神経外胚葉サイズを厳密に観察する必要がある。現時点で詳細な観察を可能にする顕微鏡はセンター共通備品しかないため、今後の研究で高頻度に使用することを考慮し、高解像度でウニ胚を観察できる蛍光実体顕微鏡または蛍光顕微鏡の購入を検討する。
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