研究課題/領域番号 |
23770247
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡邉 正勝 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (90323807)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | パターン形成 / ギャップジャンクション / ゼブラフィッシュ / 色素細胞 |
研究概要 |
細胞が集まりあるいは分裂を繰り返し「器官」「生体」という「形」を作る場合、細胞あるいは組織の間には「境界」が生じなくてはいけない。私は、これまで多くの研究者が着目してきた初期発生ではなく、後期発生に着目し、どのように細胞や組織の境界が形成され維持されていくか、という問いに関して研究を進めている。実験対象としてゼブラフィッシュの体表模様(ストライプパターン)に着目し、その形成過程に関わる遺伝子の解析を進めている。ここで特筆したい点は、体表模様を構成する色素細胞の「分化・発生」そのものに関わるというよりは、色素細胞の「配置」に関わる因子に着目し、解析するという点である。研究計画としては、1)体表模様変異体の原因遺伝子の同定(seurat変異体、dali変異体)、2)模様変異体leopardの原因遺伝子であるconnexin41.8の機能解析、3)異種色素細胞間の相互作用因子としてのNotch-Deltaシグナリング、の解析を行っている。本年度は、seurat, daliのそれぞれの変異体に関して、原因遺伝子として、細胞接着に関わるタンパク質である、Igsf11およびTSPAN3cの単離に成功した。これらは、細胞膜に存在する蛋白質であり、細胞間あるいは細胞と基質との接着に関与していると考えられる。現在、これらの機能と、色素細胞の運動性や配置との関連に関して解析を進めている。また、connexin41.8に関して特にそのN末ドメイン構造に関して変異体を用いた解析を行い、この領域がパターン形成に関して重要な役割を担っていることを明らかとした。特に、これまでin vitroのみでその存在が予想されていたギャップジャンクションの整流性がin vivoにおいても重要な役割を担っている可能性を示した。現在、この機能とパターンとの関連性の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
模様変異体seura及びdaliに関して、原因遺伝子をそれぞれ同定した。seurat変異体は、野生型ゼブラフィッシュに見られるストライプパターンが、小さなスポットがつながった模様になる変異体である。この原因遺伝子は細胞接着因子の一つであるigsf11であることが明らかとなった。生化学的な解析を行ったところ、検出されたアミノ酸変異によって細胞接着への機能の低下が確認された。更に、これに起因する黒色素細胞の運動能力の低下も確認された。本件はイムノグロブリンスーパーファミリーに属する遺伝子が、ゼブラフィッシュの体表模様形成に関与する今年示す初めての発見である。dali変異体は、通常のストライプ幅がそれぞれ2倍近くなり、ストライプ本数が減少する変異体である。原因遺伝子を同定したところ、細胞接着に関わる蛋白質、テトラスパニンをコードする遺伝子であることが分かった。この遺伝子に関しては現在機能解析を進めている。connexin41.8に関しては、体表模様形成に関して複数の機能を持つこと(黒色素細胞の活性化、黄色素細胞の抑制、黄色素細胞から黒色素細胞への活性化シグナルの伝搬)が明らかとなった。また、connexin41.8蛋白質に存在するExxxE motifがチャネル機能に重要な機能を担っていることが明らかとなった。Notch-Deltaシグナルは黄色素細胞から黒色素細胞への直接的なシグナルを担っている可能性が示唆された。connexin41.8に関しては23年度中に論文が受理され、24年度初めに掲載予定である。seuratに関しては、現在論文投稿中である。Delta-Notchに関しては、論文作成を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
connexin41.8に関しては、特にN末ドメインが重要な働きをすることから、このドメインの3次構造の決定と、このチャネルに整流性をもたらすポリアミンとの結合について詳細な解析を行う。また、この遺伝子の機能的普遍性を調べる意味で、他生物における機能についても調べる。dali変異体の原因となるテトラスパニンタンパク質がどの様なメカニズムで体表模様形成に関わるか、特に、インテグリンを中心とした膜たんぱく質に着目し研究を進める。また、23年度後半から、電子顕微鏡を用いた色素細胞の詳細な形態の解析を開始した。これは、Delta-Notchシグナルが、細胞間の直接的な接触の結果起こるためである。電子顕微鏡解析の結果、これまでに報告が無かった黒色素細胞と黄色素細胞の直接的な接触を観察することに成功した。今後は、上記遺伝子の分布と絡めて、更に、他の模様変異体の色素細胞分布にも着目して解析を進めてく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、主に発生学的解析のための消耗品の購入に研究費を当てる。また、研究成果の報告のための雑誌掲載料、構造解析は他研究機関との共同研究として進めるので、打ち合わせのための旅費として使用する。
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