研究課題
本研究では脊椎動物のなかで最も初期に分岐し、原始的な形質を残すヤツメウナギについて、始原生殖細胞の決定や初期分化に働く遺伝子を同定し機能を解明する。平成24年度はヤツメウナギ受精卵への顕微注入法を応用し、前年度までに同定したNanosなど生殖細胞関連遺伝子の阻害実験(アンチセンスモルフォリノオリゴ)やCXCR4-GFPレポーター遺伝子による細胞移動の観察を行った。この実験はヤツメウナギ胚が得られる5~7月に集中して行い、実験胚はすべて固定した。現在ホールマウント免疫染色法やin situハイブリダイゼーション法により、顕微注入胚にみられる影響を調べている。平行して、ヤツメウナギの新たな生殖細胞関連遺伝子の探索を行った。Ensemblデータベースに公開されたゲノム情報に加え、より精度の高いアセンブル情報が得られるワシントン大学ゲノム研究所のデータベースを用いてPiwi, TDRD, vasaなどの遺伝子候補配列を見出した。これをもとにRT-PCRを行ってcDNA断片を得、胚発生期に発現しているものに限ってin situハイブリダイゼーションを行った。その結果、これらの遺伝子群のいくつかが卵割期の動物極側の割球に局在していることを見出した。また本研究の主要な材料であるカワヤツメに近縁な、スナヤツメのアンモシーテス幼生を用い、成熟前の生殖巣の形態的な観察も行った。横断面の連続切片を作成し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行って観察したところ、体長90mm程度(受精後1年以上)の個体ではすでに、正中線上にひとつの生殖巣が存在し、さまざまな分化段階の卵母細胞が収められていた。CXCR4-GFPレポーターによってトレースできる始原生殖細胞は、胚発生期には左右一対の細胞塊を形成するが、その後正中線上で統一されて成熟を迎えると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は新しい生殖細胞関連遺伝子を単離することができ、前年度までに得られていた特異的遺伝子発現のデータを強化することができた。また実験補助員との協同作業により、希少な材料であるヤツメウナギ卵を用いた実験を効率的に進め、更なる解析のための実験胚を多数得ることができた。
平成25年度には、前年度に同定した新たな生殖細胞マーカー遺伝子の発現パターンをより詳細に解析する。方法としては、卵割期~幼生期を網羅したホールマウント試料についてin situハイブリダイゼーションを行うほか、成体の生殖巣の組織切片についても同法により発現の検出を試みる。また、CXCR4など細胞移動を制御する受容体分子について、市販の阻害剤(AMD3100, FC131)を作用させ始原生殖細胞の発生への影響を観察する。分子生物学的な実験および生体材料飼育を担当する技術補佐員を雇用し、効率よく実験を進める。得られた知見を脊椎動物の他系統と比較し、生殖細胞形成機構の進化的変遷について考察する。
平成25年度はこれまでの実験結果を補強するデータを得る目的で、胚を用いた追加実験を行うための試薬類を購入する。また成果を総括して国際学術誌に発表する前段階として、同分野研究者との情報交換が必要である。そのための旅費としても活用する。
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Gene Expression Patterns
巻: 13 ページ: 43-50
10.1016/j.gep.2012.11.001