研究課題/領域番号 |
23770257
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
柴田 幸政 関西学院大学, 理工学研究科, 博士研究員 (80314053)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | クロマチン / H2A.z / 細胞運命の維持 |
研究概要 |
私は、C. elegansでsingle cell levelで細胞運命を追跡する事で、アセチル化ヒストン結合蛋白質BET-1とヒストンアセチル化酵素MYS-1が、運命の維持に関わっている事を見つけている。本研究では、運命の維持に必要な新規な分子機構の作用機序を知るために、MYS-1とBET-1と共に働くクロマチン蛋白質を明らかにし、それらとBET-1、MYS-1がターゲット遺伝子座の挙動にどう関わるかを明らかにすることを目的としている。 これまでに、BET-1と共に働くクロマチン蛋白質として、ヒストンH2AバリアントHTZ-1/H2A.zを同定した。BET-1はsomatic gonadで細胞運命を維持する事で、ニッチ細胞DTC (distal tip cell)の過剰形成を抑制している。htz-1mys-1二重変異体も同様にDTCの過剰形成がみられた。htz-1がbet-1遺伝子と同じ遺伝的経路で働く事も確認している。これはヒストンバリアントが細胞運命の維持に必要である事を示したはじめての例である。 in vivoでceh-22/HoxがHTZ-1のターゲットである事を明らかにするために、ceh-22遺伝子座をsingle cell levelで可視化するための株を現在作製している。また、single cell levelで、ceh-22遺伝子座のヒストン修飾とその高次構造を観察するための株を作製しているので、今後、ヒストン修飾と高次構造の観察を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、概ね計画通りに進んでいる。当初の計画では、BET-1ターゲットのクロマチン状態をin vivoで観察するために、mec-3/LIM遺伝子を主に解析する予定であった。しかし、その後もう一つのターゲット候補ceh-22/Hoxの発現抑制に関わる因子を複数同定したため、ceh-22遺伝子座のクロマチン状態を主に観察する事にした。 C. elegansでは一般にsalmon sperm DNAなどを同時に導入して、複雑な構造を持つコンカテマー(Complex array)を使う方が、より通常の染色体に近いクロマチン状態を観察できると信じられている。しかし、ceh-22遺伝子の発現に関してはComplex arrayを用いるとうまく発現しない事がわかった。そのため、通常のExtrachromosome arrayを用いてceh-22遺伝子座のクロマチン状態を観察する事にした。現在までに、ceh-22::mCherryを持つExtrachromosome arrayの作製が終了し、その高次構造の観察を始めている。また、このExtrachromosome arrayのヒストン修飾の状態を抗体染色で調べるために、現在染色条件の検討を始めている。 BET-1経路で働く遺伝子をRNAiスクリーニングで検索したところ、HTZ-1, ヒストンH4K20メチル化酵素SET-1がBET-1経路で働く事がわかった。また、H3K27脱メチル化酵素UTX-1の欠損がBET-1経路の異常を抑制する事も以前からわかっている。この様に、BET-1と共に働く多くのクロマチン関連因子を同定する事ができた。この様に、研究方法に若干の修正があるが、大筋本来の研究計画に沿って順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
BET-1経路でHTZ-1が働く事が明らかになった事から、ceh-22遺伝子座がHTZ-1のターゲットである事を確認する事が重要となった。そこで、ceh-22遺伝子を持つExtrachromosome array (ceh-22 array)へのHTZ-1の局在を観察する事で、HTZ-1がceh-22遺伝子をターゲットに持つ細胞を明らかにする。 また、ヒストン修飾に対する抗体を用いて抗体染色を行うことで、ceh-22 arrayのH3K27me、H4K20meの状態を明らかにする。さらに、H2A.z、H3K27me、H4K20meの関係を明らかにするために、変異体を用いてceh-22 array にH2A.z、H3K27meまたはH4K20mの異常が起こった場合、他の二つの状態にどのような影響が出るのかを調べる。 クロマチン高次構造と転写の関係を調べるために、ceh-22 arrayの核内でのサイズ、位置を観察する。また、ceh-22 arrayは通常核内に複数存在するので、その相対的な位置関係も観察する。転写とクロマチン高次構造に相関がみられる場合は、endogenousなceh-22遺伝子座も同様のクロマチン高次構造をとる事を確認する。更に、変異体を用いてH2A.z、H3K27meまたはH4K20mの異常が、ceh-22 arrayの高次構造にどのように関わるかを明らかにする。これについても同様にendogenousなceh-22遺伝子座に対する影響も調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本計画では、C.elegansを用いin vivoでceh-22遺伝子座などのクロマチン状態の観察を行う。そのために、まず観察に必要な遺伝子組替え体を作製するため、分子生物学実験用試薬、C.elegans培養用品を購入する。この遺伝子組替え体を用いて、クロマチン状態を顕微鏡で観察するので、顕微鏡観察用品を購入する。また、クロマチン状態の観察を行うために、市販の各種ヒストン修飾の抗体を用いて抗体染色を行うので、必要な抗体を購入する。さらに、クロマチン状態の調節に必要な遺伝子の働きを明らかにするために各種変異体を用いるので、stock centerから変異体を購入する。また、クロマチン状態を観察するために大量の顕微鏡写真を撮影するので、その画像を保存するメディアも購入する。各品目の数量等については研究の状況により必要量が変化する。 また、同様の分野の研究者と情報交換を行うため発生生物学会、分子生物学会、East Asia C. elegans Meeting、International C. elegans Meeting等の学会に出席するので、そのための、旅費を予定している。また、本年度の研究から得られた成果である、「ceh-22の転写抑制の維持を介して、HTZ-1がsomatic gonadal cellの細胞運命を維持している」という結果を雑誌上で発表し、その成果を内外に示すため外国語論文の校閲、研究成果投稿料を予定している。また、予定していた実験を組み替えたため、本年度の未使用額52,027円を次年度に使用する事にした。
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