研究課題/領域番号 |
23770258
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
林 貴史 国立遺伝学研究所, 個体遺伝研究系, 助教 (50553765)
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キーワード | ショウジョウバエ / 相対成長 / yki / bantam / micro RNA / IDGF |
研究概要 |
成虫原基間の相対サイズに関する研究については前年度に引き続き増殖因子Yorkie(Yki)と結合する新規の転写因子の同定を試みた。 24年度はSine oculis, Eyes absent, Chinmo, Bunched等の因子とYkiとの結合の有無を調べた。しかしながらこれらの因子とYkiとの間の強い結合は検出されなかった。また前年度に結合が見られたとしたDachshundに関しても、さらに注意深く追実験を行ったところ、残念ながら結合活性とみられたものは実験のアーティファクトであることがわかった。 Ykiの下流ではbantamというmicroRNAが組織の成長を調節していることが知られている。またinsulin/IGFも組織の成長制御に本質的な役割を果たしている。そこでbantamとinsulin/IGFの成虫原基間における活性の違いを定量的に調べるシステムの構築を試みた。現時点ですでにこれらのコンストラクトを持つ形質転換バエが得られつつあり、全ての形質転換体が得られた時点で解析を開始する予定である。またinsulin/IGFに関してはimaginal disc growth factor(IDGF)という因子がその活性を制御している可能性がある。ショウジョウバエはゲノムに5つのIDGF遺伝子を持ち、それらは互いに似通っていることから、同一の活性を持ち機能的にredundantであることが予想される。そこでこれら5つの遺伝子をまとめて不活性化させるRNAiコンストラクトを作成し、形質転換バエを作成した。このハエはinsulinシグナルの欠乏と非常によく似た表現型を示し、IDGFとinsulinの親密な関係が示唆された。遺伝子の機能解析ではredundancyが大きな問題であるが、この手法はそれを乗り越える一般的なテクニックとして発展することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初は、Ykiは組織毎に異なったパートナー転写因子と結合し、成長を制御すると予想していたが、多数の候補因子のいずれもYkiとの結合活性を示さなかった。コントロール実験はうまく動いていることから実験系の不備ではないと考えられ、Ykiパートナーは予想したほど多くは無い可能性が示唆された。成虫原基の発生で本質的な役割を果たすWingless(Wnt)とDpp(BMP)の下流で働くArm(beta-catenin)とSmadはYkiと結合し、転写において協調的に働くという報告もあることから、ほとんどの成虫原基の成長にはArmとSmadだけで十分なのかもしれない。従って当初の研究計画を多少修正し、Arm/SmadとYkiとの関係、そしてykiによるbantamの制御機構についても調べていきたいと考えている。この点に関して、bantamとinsulin/IGFの成虫原基間における活性の違いを定量的に調べる研究は当初の予定には無かったが、もしこのシステムがうまく作動するならば、相対成長の本質的なメカニズムを調べる上で非常に重要な知見が得られることになると期待している。この実験は現在まで順調に進んでいる。翅原基内の区画サイスに関する実験は表現型の定量化やRNAiライン作成の進展等いくつかの問題があることから、「今後の研究の推進方策」に記したように、翅と平均痕の相対サイズの研究へと軌道修正することにした。IDGFに関する実験は現時点では非常に順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように当初の研究計画は多少の修正を加える必要がある。Ykiパートナーに関しては組織サイズの特異性は転写因子の特異性以外の機構により決定されているように見える。また翅原基内の区画サイズに関するスクリーニングもいくつかの問題点によりあまり順調に進んではいない。以上の点を考慮した上で、この2者を統合し、成虫原基間、特に翅と平均痕(Haltere)という相似の組織間でのサイズ決定に際して、WgとDppの下流で働くYki/bantamの役割とそれとは独立に働くと考えられるinsulin/IGFについて集中的に調べることを考えている。そのためにHox遺伝子の一つであるUbxの抑制に感受性を持たないwgとdppのレスキューコンストラクトを作成し、wgとdppを平均痕において翅と同程度に発現させた場合にどの程度bantamやinsulinシグナルが回復し、成長の抑制が解放されるのか調べる予定である。またinsulin/IGFについてはIDGFとの関係も調べたい。IDGFによるinsulin/IGFの活性制御は相対サイズ決定において何らかの機能を果たしている可能性もあり、またinsuli/IGFの活性制御自体も興味深いテーマであるので、引き続き実験を続けて行く予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に記した研究を行うにあたり、特に新たな機器等を購入する必要はない。その一方で組織学実験(免疫染色)、分子生物学実 験(DNAクローニング等)、生化学実験(免疫沈降実験等)などを行うための消耗品が必要となるため、研究費のかなりの部分は消耗品の購入にあてる。またショウジョウバエ飼育のための餌、プラスチック瓶等も継続的に必要であり、ストックセンターからのハエの購入代金にも充てる。また一部は学会参加のための旅費として使用する。
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