研究課題/領域番号 |
23770261
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 誠 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 助教 (10533193)
|
キーワード | 神経管 / 上皮 / セカンドメッセンジャー |
研究概要 |
前年度の解析からカルシウム経路の活性が神経上皮細胞で一定の頻度で変化し細胞の形態形成を制御する可能性が示唆されたことから、本年度はカルシウム経路を細胞外から制御する因子としてATPに着目し、前年度までに確立したカルシウムイメージング法と種々の阻害実験を組み合わせて、神経組織における細胞外ATPの存在と機能を検討した。まず細胞外ATPが神経管形成に与える影響を検討するために胚にATPを添加した結果、神経板の大規模な収縮運動が観察された。この時の細胞内カルシウムの動態を観察した結果、ATP添加直後に大規模なカルシウム濃度の上昇が起こった。同様のカルシウム上昇は細胞に機械的負荷を与えた時にも起こったことから、機械的負荷がATPの細胞外への放出を制御する可能性が示唆された。また、生理的条件で存在する細胞外ATPの機能を検討するために細胞外にATP分解酵素を強制発現した結果、神経管の閉鎖運動時に生じるカルシウム変動の伝播現象が減少することが明らかになった。更に内在性の細胞外ATPを可視化して観察した結果、ATP結合能に依存してシグナル値の上昇が見られた。以上の結果は、神経板の細胞の間隙にATPが存在し、それがカルシウム動態の活性化を通して神経管の閉鎖運動を制御する可能性を示唆している。今後は細胞外ATPの枯渇が神経管形成に与える影響を検討するとともに、ケージド化合物による細胞外ATPの一過的生成実験を行い、細胞外ATPが神経上皮細胞の形態に与える影響を詳しく解析する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた研究解析はほぼ予定通り実施でき、カルシウム経路の新たな動態、細胞形態形成との機能的関連、細胞外ATPのそれらに対する関与を示唆する知見が得られ、次年度での発展が見込まれる。一方、カルシウム経路により制御される下位の機構については同定に至っておらず課題が残る。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究を通して神経管形成におけるカルシウム経路の活性パターンと意義が明らかになりつつあり、今後は細胞形態形成に繋がる分子機構の同定が肝要となる。このため、これまでに確立した人為的なカルシウム濃度操作系を活用した解析を積極的に進めていく。また、これまでは細胞形態形成に着目していたが、神経管形成で見られる他の運動、例えば収斂運動での機能も精査することが重要である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は形態形成運動におけるカルシウムパターンのデータ収集と画像処理、さらに細胞外ATPの機能に関する観察を主体とした解析に大部分を割いたため、当初予定していた分子生物学的実験は次年度に行うこと変更した。このため、本年度に計上していた物品費の多くは次年度での研究の遂行に必要な消耗品(分子生物学試薬、ガラス器具を予定)の購入費として、次年度に請求する研究費と合わせて使用する計画である。
|