前年度までの解析から神経管の形成過程で大規模かつ高頻度での細胞内カルシウム濃度の上昇が起こること、それが神経管の閉鎖速度の一過的な加速と時空間的また機能的に関連があること、更にカルシウムパターンが一部は細胞外でのATPの機能に依ることが示唆された。本年度は以上の仮説とカルシウム誘導性の閉鎖運動機構の検証を目的とし人為的なカルシウム濃度操作系と数理モデリングを用いた解析を行った。前者については、Caged-ATPのUV照射系を導入して細胞外ATPの細胞形態形成への影響を調べると共に既知の神経管閉鎖の制御因子との相互作用について検討した。その結果ごく局所的なATPの投与は一過的かつ伝播性のカルシウム活性の上昇を引き起こし更にATP源を中心とした短時間での組織変形を誘導した。この時に細胞頂端面の面積減少が観察されたことから細胞外ATPは頂端収縮を誘導したと推定される。更にこの効果は神経管閉鎖の制御因子の一部の機能を必要とすることを明らかにし、カルシウム誘導性の頂端収縮の分子機構を提唱することができた。後者については、神経管形成過程におけるカルシウム活性の時空間的なパターンの変化が頂端収縮と閉鎖運動の進行に与える効果について数理モデルを用いて推定した。その結果、カルシウムパターンには閉鎖運動に対して非線形の効果があること、更にこの効果は一過的なカルシウム経路の活性化に依らない持続的な閉鎖運動の効果と独立に与えられることを示唆する結果が得られた。この結果は神経管の形成過程でカルシウムパターンを調節することの生理学的な意義を支持するものである。
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