研究課題/領域番号 |
23770271
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新村 芳人 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任准教授 (90396979)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 嗅覚受容体 / 化学受容 / 遺伝子ファミリー / 比較ゲノム / 分子進化 / 哺乳類 |
研究実績の概要 |
OR遺伝子の数は種によって大きく異なり、OR遺伝子ファミリーは遺伝子の重複・欠失が極端に多いことが知られている。本研究では、個々のOR遺伝子の進化ダイナミクスの多様性を明らかにすることを目的として、多種のOR遺伝子間でオーソロガス遺伝子グループorthologous gene group (OGG)を同定し、OGG間の比較進化解析を行った。まず、高精度ゲノム配列が利用可能な13種の真獣類からOR遺伝子の網羅的探索を行った。その結果、アフリカゾウのゲノム中には、これまでに報告されたどの生物よりも多い約2000個ものOR機能遺伝子がコードされていることが明らかになった。系統樹に基づいてOGGを同定する新たな手法を確立し、この手法を13種の真獣類から同定された1万個以上のOR遺伝子に対して適応した結果、781個のOGGに分類された。OGG間の比較解析の結果、以下のことを明らかにした。(1)(特にアフリカゾウにおいて)種特異的に多数の遺伝子重複を起こしたOR遺伝子が存在する。(2) 13種間で1対1のオーソログの関係が保存されているものは非常にまれ(3個のOGGのみ)で、それらは種間でのアミノ酸配列の保存性も極めて高いことから、真獣類に共通した重要な生理機能を担っていることが推定された。(3) クラス2 OR遺伝子はクラス1よりも遺伝子の重複・欠失が多く、進化速度も速いことから、クラス2のほうがよりダイナミックに進化していることを明らかにした。 この論文は昨年7月にGenome Research誌に掲載され、毎日新聞、東京新聞、ワシントン・ポスト、ナショナル・ジオグラフィックなど、国内外の多くのメディアで取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主要なテーマとして、(1) 環境に応じたOR遺伝子レパートリーの多様性とその進化過程を明らかにする、(2) OR遺伝子の重複・欠失の起こりやすさと、進化速度・機能的制約の強さや、遺伝子のクラスター構造、リガンド(結合する匂い分子)との関連性について調べる、(3) 多種間でOR遺伝子クラスターの非コード領域を比較することによりOR遺伝子の発現制御領域を同定する、という3点を挙げた。 このうち(2)に関しては、昨年度発表した上記の論文により、解析が完了した。また(3)に関しては、クラス1クラスターに対して、哺乳類間における非コード領域内の保存配列の同定に成功した。共同研究者のグループによる実験結果と合わせて、現在論文を準備中である。 (1)に関しても、上記の論文である程度の解答は得られた。しかし、次世代シーケンサーの進展により、昨年度中にゲノム配列データが急激に増加し、現在、100種以上の哺乳類や60種以上の鳥類を含む様々な脊椎動物の全ゲノム配列が利用可能となった。(1)のテーマの遂行上、これらのデータを解析に加えることが必須であるため、本研究課題の期間を1年間延長した。
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今後の研究の推進方策 |
100種を超える生物種の全ゲノムを解析するためには、これまでに開発したOR遺伝子同定法を改良し、高速化を図ることが必須である。情報量エントロピーを用いた機能遺伝子・偽遺伝子の判定法を開発し、哺乳類のOR遺伝子に対しては、新規の遺伝子同定法がほぼ完成した。今年度は、その手法を用いてOR遺伝子の網羅的検索を行うと共に、各生物の環境要因との関連性について詳細な解析を行う。また、水棲のものや飛翔するもの、地中に棲むものなど、環境特異的に用いられているOR遺伝子の同定を行う。 鳥類など哺乳類以外の脊椎動物ゲノムに対しては、本手法をそのまま適用することはできないことが分かったため、同定手法の再検討を行う。その後、哺乳類ORに対して行ったものと同様の解析(OGGの同定、遺伝子の重複・欠失率と進化速度、機能などとの関連性の解析)を行い、哺乳類・非哺乳類間での進化ダイナミクスの違いについて明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年6月、中国のグループから、60種以上に及ぶ鳥類の全ゲノム配列が一挙にデータベースに公開された。脊椎動物OR遺伝子の進化過程の解明という研究テーマの遂行上、これらのデータを解析に加えることは必須である。予備的な解析の結果、これまで哺乳類ゲノムに対して用いてきた手法がそのままでは適用できないことがわかり、解析方法の再検討を行ったため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
そのため、学会での発表と、解析結果のとりまとめおよび論文発表を本年度に行うことにした。未使用額はそのための経費(旅費、論文投稿費等)に充てる。
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