研究実績の概要 |
嗅覚受容体(OR)遺伝子の数は種によって大きく異なり、OR遺伝子ファミリーは遺伝子の重複・欠失が極端に多いことが知られている。昨年度は、個々のOR遺伝子の進化ダイナミクスの多様性を明らかにすることを目的として、高精度ゲノム配列が利用可能な13種の有胎盤類のもつOR遺伝子に対してオーソロガス遺伝子グループ(orthologous gene group, OGG)を同定し、OGG間の比較進化解析を行った。本年度は、これまでに開発した手法を拡張するとともに、データベース中にある100種以上の哺乳類ゲノムに対して本手法を適用した。特に、水棲適応したイルカやマナティー、飛翔する能力を獲得したコウモリなど、特殊な環境に生息する哺乳類に着目し、それぞれの種の生育環境とOR遺伝子レパートリーとの相関について調べた。そのために、遺伝子レパートリーの差異を定量的に比較する手法を開発した。また、本課題で開発した手法を、他の化学感覚受容体やその関連遺伝子(鋤鼻受容体V1R, V2RおよびペプチドフェロモンESP)に対しても適用した。さらに、多種間でオーソロガスなOR遺伝子クラスターの非コード領域を比較することにより、OR遺伝子の発現制御領域を同定するとともに、その進化解析を行った。現在、それらの結果について論文執筆中である。また、昨年度Genome Research誌に発表した論文の内容に関して、多数の総説や講演会で報告を行った。
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