研究課題/領域番号 |
23770273
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
岡村 浩司 お茶の水女子大学, 生命情報学教育研究センター, 講師 (80456194)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / エピジェネティクス / 遺伝子発現 / 原索動物 / 転写開始点 / プロモータ / CpGアイランド |
研究概要 |
ゲノムDNAのメチル化がエピジェネティクスの一翼として、遺伝子発現制御に重要な役割を果たしていることはよく知られている。しかしこのことは、動物に限れば哺乳類においてよく研究されてきたに過ぎず、魚類を含めた脊椎動物にまでおおよそ当てはまることは確認されているものの、ホヤやウニなどの無脊椎動物においては状況がかなり異なる。ヒトでは全ゲノム中の約70%のCpG サイトはメチル化を受けており、他の脊椎動物もそれに近いグローバルなDNAメチル化を受ける。一方、例えばカタユウレイボヤでは、全ゲノムの約半分に相当する領域がメチル化を受けており、しかも、複数の遺伝子を含む数kb から数百kb におよぶ比較的長いメチル化、非メチル化領域が交互に混在することが示されている。このメチル化パターンは、よく知られたヒトゲノムとは大きく異なり、発現制御との関わりは明確になっておらず、また、真菌など単純な真核生物でも示されているトランスポゾンの抑制機能でさえ、ホヤにおいては疑問視されている。脊椎動物の原始的な特徴を残す無顎類に加え、原索動物、棘皮動物を用いた広範囲なメチル化解析から、脊椎動物と無脊椎動物の間にパターンの大きな違いがあることが分かっており、DNA メチル化を利用した巧妙な遺伝子発現制御は、進化上、脊椎動物が誕生したごく初期に起こったグローバルなメチル化パターンの変化とともに獲得されたと考えるのが自然である。本研究ではこの経緯を探ることを目的とし、脊椎動物および無脊椎動物の境界付近に位置する種を用いてRNA-seq を利用した網羅的な転写開始点決定、およびプロモータ近傍のDNA メチル化解析を行う。複数の種から得られたデータを比較検討することにより、転写制御を担うエピジェネティクスの進化的な構築過程を明確にして、遺伝子発現の人為的制御の基盤創出を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初期脊椎動物がいかにDNAメチル化を遺伝子発現制御に利用するようになったかを探るため、進化上、脊椎動物および無脊椎動物の境界付近に位置する種を用いてRNA-seqを利用した網羅的な転写開始点決定、およびプロモータ近傍のDNAメチル化解析を計画した。最初の実験対象種として原索動物であるカタユウレイボヤを選び、初年度は次世代シークエンサを用いて転写開始点決定を終了することができた。この成果は、指導している学生が国際学会でポスター発表を行い、代表者自身も別な国際学会で発表を行った。その際には投稿された104報の中から口頭発表に採択され、さらに出版された論文は最優秀論文賞を受賞することができた。カタユウレイボヤのDNAメチル化解析については、東京大学の伊藤研究室との共同研究で、東京大学の学生が学会発表を1件行っている。また、哺乳類のDNAメチル化について指導しながら研究を行っていた上記の学生とは別の2名が、それぞれ別件で学会発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
原索動物であるカタユウレイボヤについて、ゲノム全体に渡るプロモータの位置とDNAメチル化レベルの情報が集まったので、対応するヒトの領域を見つけ出して比較解析を進め、どのような配列がどう変化しているのか全般的な傾向を調べ、メチル化による遺伝子発現制御がゲノムの分子進化上、いかに獲得されたかについて考察する。初年度の研究においてCpGアイランドがプロモータになっている場合と、そうでない場合とで分けて考えることの重要性が示されたので、この立場で解析を進める。そして最終年度に、ウニ、ヤツメウナギなど新口動物の生物種について同様の解析を行う予定である。その頃には配列決定のコストが今よりも下がっていることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
DNAメチル化解析の結果についてはまだ論文にまとめていないので、この成果についての学会発表(可能ならば国際学会)、論文発表に研究費を使用する予定である。また、ウニやヤツメウナギなどの種についてもカタユウレイボヤと同様の実験を行うため、その実験試薬代に充てることを考えている。
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