研究課題/領域番号 |
23770274
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
北條 優 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 研究員 (80569898)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ヒドロキシメチルグルタリルCoA / HMG-CoA合成酵素 / HMG-CoAレダクターゼ / ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素 / テルペノイド / RNA干渉 / 化学的防衛 / カースト分化 |
研究概要 |
シロアリの中でも最も派生的なテングシロアリ類の兵隊カーストは、「nasus」と呼ばれる突起構造が頭部前方に発達し、額腺で合成される粘性のあるジテルペンなどをnasusから噴射するという特徴的な防衛を行う。テングシロアリ類のタカサゴシロアリの兵隊を用いて、防衛分泌物に特徴的なセンブレン由来ジテルペンの合成経路に関わる遺伝子を特定するために、額腺で発現している遺伝子配列を次世代シークエンサー(454 GS Junior)で決定した。その結果、774遺伝子が検出され、その中に4種類のジテルペン合成経路に関わる遺伝子が含まれていた。中でも全てのイソプレノイドの合成に関わるメバロン酸経路の2つの遺伝子は、リアルタイム定量PCRの結果から、兵隊の額腺を含む組織で特に発現していることが明らかになり、それらがジテルペン合成に関わっている可能性が示唆された。今回の結果から、ジテルペン合成のためのメバロン酸経路が額腺で行われていることが明らかになり、既存の代謝経路が防衛方法の進化に伴って改変され、防衛物質の合成に使われるようになったと考えられる。この結果を現在研究論文として発表準備中である。また、タカサゴシロアリ兵隊のnasusの発達に関わる遺伝子候補として、昆虫の付属肢の遠位部形成に関わるDistal-less(Dll)遺伝子に着目し、Dllのホモログを取得後、RNAi法により遺伝子発現を抑制した結果、nasus原基の形成には顕著な影響が見られ、上皮細胞の溝構造が不完全になった。従って、Dllを含む付属肢形成に関わる遺伝子経路が、nasus形成にも関与することが示唆された。この結果は、富山大学理学部と共同で国際誌に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ジテルペン合成経路に関わる酵素の遺伝子を同定するため、トランスクリプトーム解析を行うことにしたが、使用するタカサゴシロアリの額腺は非常に小さく、GS Juniorでの解析に必要な組織量を一人で解剖するのは困難であった。そのため、今回は富山大学理学部の前川清人先生の研究室においてタカサゴシロアリの額腺から作製されたプラスミドライブラリーを用いてシークエンシングを行った。結果として得られたリードにはプラスミドや大腸菌の配列が多数含まれており(全配列の約2/3)、アセンブルに使えるリード数が予想していたより少なくなってしまった。この実験でジテルペン合成に関わる全ての遺伝子配列を決定することができなかったのはそのためと考えられるが、これまで遺伝子の同定が困難であったメバロン酸経路の2つの遺伝子を取ることができたことは、この手法を用いた功績である。また当該年度に行う予定であった、分子進化系統解析に用いる各種シロアリのサンプリングは、マレーシア(ボルネオ島)での採集許可を得ることができず、次年度への持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、ディファレンシャル・ディスプレイ法など非モデル生物でも網羅的に遺伝子発現を比較できる手法を使って、タカサゴシロアリのカースト間での遺伝子発現を比較する予定であった。しかし、現在では次世代シークエンサーを用いたRNA sequencing法(RNA-seq)など、より優れた網羅的遺伝子発現解析法が開発されている。また次世代シークエンサーにより得られた短いリード配列を用いたアセンブルも、現在ではアセンブラーソフトの向上により非モデル生物でのde novoアセンブルも可能になっている。そこで、今後は基礎生物学研究所の重信秀治先生との共同で、次世代シークエンサーIllumina HiSeq2000を用いてRNA-seqを行い、ジテルペン合成経路の全遺伝子の同定を試みる予定である。得られた遺伝子候補については、リアルタイム定量PCRを用いて、発現解析を行う予定である。また、遺伝子機能解析を行うためのRNAi(RNA干渉)法は、Dll遺伝子を使った方法ですでにタカサゴシロアリにおいて開発されており、今後のジテルペン合成に関わる遺伝子の機能解析にもこの手法が応用できると期待できる。分子進化系統解析に用いる各種シロアリのサンプリングについては、ボルネオ島での採集許可を得ることができない場合は、オーストラリア(ダーウィン)での採集を考えており、サンプルの持ち出しにはシドニー大学のNathan Lo博士の協力が得られる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次世代シークエンサーIllumina HiSeq2000でのシークエンシングは1ランあたり50万円ほどの費用が見込まれるが、各カースト間、組織間でのRNA-seqによる比較を行うためには数ラン行う予定である。候補遺伝子の全長配列が得られなかった場合は、完全長cDNAライブラリーの作製が必要になり、ライブラリー作製キットやクローニング、シークエンシング関係の試薬、消耗品費も見込まれる。次年度は候補遺伝子の発現解析のために、リアルタイム定量PCRを大量に行わなければならず、RNA抽出キット、逆転写酵素やリアルタイム定量PCR反応キット類などの消耗品費が必要になる。また同様に、機能解析を行うための遺伝子実験用試薬類、実験器具類などの消耗品費用も必要である。9月に東京で行われる昆虫学会大会、3月に静岡で行われる生態学会大会にて、研究成果の発表を行う予定である。また国内のシロアリのサンプリングは、西表島、兵庫および東京にて行うことを考えており、次年度に数回行うことを予定している。また、8月に韓国で行われる国際昆虫学会大会における研究成果発表、分子進化系統解析に用いる各種シロアリのサンプリング(オーストラリアおよびマレーシア)に掛かる外国旅費も必要になる。
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